NHK受信料「徴収督促チップ」が全テレビに!? 全対応機にACASチップを入れるのは不当だ

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たとえば日本以外の国に目を向けると、無料放送は暗号化が行われないことが普通だ(これはNHKとよく比較されるBBC〈英国放送協会〉も同じ)。唯一、暗号化されているのは韓国の4K放送だが、韓国の4K放送ではCASは採用されておらず、単純な暗号化(スクランブル)のみ。スクランブルのみであれば、テレビ用SoC(System on a Chip)に内蔵されるセキュリティ機能とソフトウエアによって組み込むことができるため、CASという仕組みは必要ない。

つまり、CASが必要な理由とは“契約の状態を確認することだけ”にほかならない。コンテンツ保護とコンディショナルアクセスを、あたかも一体化された切り離せないものであるかのような議論は、筆者が知るかぎり日本以外では行われていない。

全受信機にCASを内蔵させる経済合理性はない

もちろん、有料放送には必須だ。しかし最も多くの会員を持つWOWOWでも契約数は285万8023(2017年12月末時点)でしかない。全受信機にCASを内蔵させる経済合理性はない。契約者だけに契約情報を判別する装置を配布すればいいからだ。

唯一、CASをすべてのテレビチューナーに内蔵させることに対して経済合理性が成立するのは受信契約世帯数4300万以上、衛星契約だけでも2100万以上(2017年11月末時点)を抱えるNHKだけだ。

契約世帯と書いているが、テレビを保有する世帯はNHKとの契約が必要。実際の受信料を支払っている世帯は、そのうちの77%前後と見られる。この数字は英国の「TV Licence」制度における徴収率(2016年度で93~94%)と比べても低い。NHKとしては、CASを用いて支払いメッセージを表示させることで徴収率を高めたいのだろう。

“公共放送に対するコストの公平な負担”を求めるためにCASは必要であるという大義名分も立ちそうだが、実際には「たいした負担ではないから内蔵させてもいいのでは」と見逃せるほど小さな問題ではない。

“チップ内蔵”になると、どのような不利益が消費者にもたらされるのだろうか。

ACASチップの内蔵が必須となれば、すべてのテレビやチューナー内蔵機器のメイン基板にACASチップが直接搭載されることになる。そのコストは受益者である有料放送事業者が負担すべき筋のものだが、現在の案では新CAS協議会が指定する半導体商社から必要なチップを購入し、メーカーが実装する必要がある。

これはCASが不要な利用者にとっては必要のないものだ(コンテンツ保護だけならば追加チップは不要)。

ではCASチップとそれを搭載するコストを有料放送事業者が負担すればいいだけなのだろうか?

実はこれも誤りだ。なぜなら、ACASチップの品質保証や故障時対応があるからである。ACASチップが故障したり、品質問題を出した場合、当然ながら“放送が受信できない”状態となる。しかし故障したテレビ、チューナー機器の中で、どの部分が故障しているのかを簡単に見分ける方法がない。

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