朝鮮有事では中国の軍事介入に警戒すべきだ

米国の外交専門家による警告

中国が介入に踏み切る場合、戦略目標は少なくとも3つある。1つ目は、北朝鮮の体制崩壊による難民流入をコントロールできる範囲内に収めること。中国政府はすでに中国北東部吉林省の北朝鮮国境の町に難民キャンプを建設する計画を進めている。2つ目は、人民解放軍が北朝鮮の主要な核・ミサイルの開発施設を制圧すること。北朝鮮の核兵器を接収し国外への流出を阻止することは、米中両国に共通する目標だ(必ずしも協力はし合えない)。

第3の目標は、朝鮮半島に大きな軍事プレゼンスを確立することだ。戦後の朝鮮半島を政治的軍事的にどう統治するかという交渉の中で、最大限の影響力を確保するためだ。シリア内戦に介入して中東での影響力を強めたロシアのように、中国も朝鮮半島再統一後の政治に大きな発言力を確保しようとしている。これこそが、アメリカにとって最も厄介な問題だ。

中国の軍事介入がほぼ不可避であることは、アメリカの対北朝鮮戦略にとって重要な意味を持つ。戦後の混乱と不安定をどうやって収束させるのか、米中間で議論を開始しておくべきだ。米中の利害が一致する計画を立てるとなると障壁はあまりに高い。しかし対話チャンネルさえ作っておけば、少なくとも作戦上で米中が衝突する危険は回避できる。また野心的な目標だが、核兵器や核関連物質の管理で役割分担ができれば尚いい。

レックス・ティラーソン米国務長官は以前、米中間で対話が進んでいると発言したが、形ばかりで中身は不十分なままだ。中国は歴史的に見ても、朝鮮半島有事における危機管理対策に及び腰だ。北朝鮮が崩壊しても構わない、と言うかのようなシグナルを出したくないからだ。

だが、それも変わりつつある。対北朝鮮政策は、中国国内で最も激論が戦わされている外交分野だ。台湾や南シナ海の問題とは違い、対北朝鮮政策では、学者やシンクタンク、政府関係者が従来と異なる新たなアプローチを提唱することを中国共産党指導部も公然と認めている。それだけ解決策を必要としている証拠だ。トランプ政権は、圧力と外交で中国に対北制裁を強化させることにかけては近年にない成果を上げた。同じ手法で危機管理対策に関する対話に中国を巻き込むことができれば、より良い結果が生まれるだろう。

米中軍事衝突の危険

だがそれ以前に、米政府には取り組むべき課題がある。戦争開始直後からほぼ確実に発生する甚大な人道的・経済的困難に対処するために、トランプ政権が準備した形跡はほとんどない。その準備がなければ、米中両軍が危険な距離まで接近し、双方の意図を読めないまま軍事衝突に発展する危険が高まるだけだ。

そもそも米政府は、朝鮮半島における長期的なビジョンについて、いまだに基本方針を示していない。再統一後の米韓同盟の行方や、在韓米軍の駐留を継続するかどうかも、明らかにしていない。トランプ政権が早急に方針を打ち出さなければ、アメリカの長期的な利益を守り、なにより重要な韓国との連携に向けた提案の作成にかける時間が足りず、慌てふためく羽目になる。一方の中国は、韓国が朝鮮半島を再統一し、米軍の同盟国となり、米軍が駐留する核兵器保有国が誕生する、という最悪のシナリオの回避へ向けて必死で先手を打とうとしてくるに違いない。

中国の軍事介入を阻止することは、アメリカには不可能だしやるべきでもない。だが人民解放軍との予期せぬ軍事衝突を起こすリスクを減らすための計画策定はすぐにも始めなければならないし、アメリカが北東アジアで今後果たす役割についても中国に指図されないようにしなければならない。もしアメリカが無計画のままなら、失敗は目に見えている。

(文:イーライ・ラトナー〈米外交評議会シニアフェロー〉、
翻訳:河原里香)

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