事実!女性医師のほうが患者の死亡率が低い 同研究が「今年影響力の高かった論文」3位に

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この数字だけ見ると「それだけしか変わらないのであれば、どちらでもよいのでは?」と思う人もいるかもしれない。しかし、死亡率を下げるというのは実はとても大変なことなのである。米国における2003~2013年の高齢者の死亡率の低下と、男性医師と女性医師の患者の死亡率の違いはほぼ同じレベルであった。

過去10年には医療技術が進歩し、数多くの新しい薬が開発されているが、これらを総合したインパクトと、医師の性別のインパクトがほぼ同じ大きさというのは、医師の性別が患者の健康に無視できないほどの影響があるといえるだろう。

外科では医師の性別による患者の予後の違いはない

筆者たちの研究では内科医を対象にしていたが、外科医の場合はどうなのだろうか。

今年の10月には、他の研究チームが、カナダのオンタリオ州のデータを使って外科医の性別の影響を調べた。その結果、執刀医が女性だった場合のほうが、死亡率が低いと報告された。しかし、患者が執刀医を選んでいる可能性を取り除くために、患者が医師を選べない緊急入院に限って解析を行うと、外科医の性別による患者の死亡率の違いはないという結果であった。つまり、外科医に限って言うと、医師の性別による患者の予後の違いはないと考えられる。

なぜ女性の内科医のほうがよい結果を残せるのだろうか。実は、女性医師のほうが質の高い診療をしていることを示唆する研究は複数ある。過去の研究によると、男性医師と比べて女性医師のほうが診療ガイドラインにのっとった治療を行う傾向があり、予防医療をより多く提供し、患者とのコミュニケーションスキルも高いと報告されている。

興味深いことに、男性医師のほうが質の高い医療を提供しているという研究結果はほぼ皆無である。

一昔前に、『話を聞かない男、地図が読めない女』という本が日本でも大流行したが、男性と女性は違う生き物であることに異論を唱える人は少ないのではないだろうか。経済学や心理学の世界では、性別によってリスクに対するとらえ方に違いがあるかどうかを調べた研究が、数多く行われている。

過去の研究結果の多くが、男性よりも女性のほうがリスク回避的(不確実性を好まない)であるという傾向を認めた。女性医師がよりガイドラインにのっとった医療を提供したり、患者の話をより丁寧に聞くのも、女性のほうが「石橋をたたいて渡る」性格があるからなのかもしれない。

患者の立場からすると、医師を性別によって選ぶ必要はないだろう。もちろん男性医師の中にもすばらしい名医がいて、女性医師の中にも質の高くない医療を提供している医師もいるからである。しかし、少なくとも、「担当医が女性だったからといって心配に思う必要はない」ということは覚えておいて損はないだろう。特に内科の病気で入院になって、担当医が女性であることがわかった場合には、きちんと話を聞いてくれる可能性が高く、質の高い医療を受けられる確率も高いのだから。

津川 友介 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)准教授

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つがわ ゆうすけ / Yusuke Tsugawa

東北大学医学部卒、ハーバード大学で修士号(MPH)および博士号(PhD)を取得。聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード大学勤務を経て、2017年から現職。著書に『週刊ダイヤモンド』2017年「ベスト経済書」第1位に選ばれた『「原因と結果」の経済学』(中室牧子氏と共著、ダイヤモンド社)、『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)。ブログ「医療政策学×医療経済学」で医療に関する最新情報を発信している。

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