耕作放棄でも税優遇、「生産緑地」は大問題だ 草刈りすらされずに放置されるケースも

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生産緑地の所有者には大地主が多い。江戸川区の耕作放棄地と見まがう生産緑地の所有者であるM氏も、多くの土地を所有する地元の名士だ。各地域には税務署の協力団体で、税制に関する啓蒙や納税教育を進める法人会という組織がある。M氏は長く江戸川北法人会の会長職を務め、数年前に定年でその職を退くまでは講師として税金の納付勧奨や啓発のセミナーなどを開催していたという。

生産緑地とは名ばかりの状況だ(記者撮影)

また、20数年に渡って、複数の町内会の連合体である連合町会の会長や、江戸川花火大会の大会委員長も務めた。

東洋経済は、このM氏に生産緑地の耕作放棄について、再三にわたり取材を申し込んだ。しかし、何の返答も得られなかった。まがりなりにも税に関する啓蒙セミナーの講師を務めた人物として、ノブレス・オブリージュ(高貴な者の義務)を果たす責任があるのではないだろうか。

ただ、冒頭の農業委員は「これほどひどいものは見たことがないが、何の生産もしていないのに、営農を続けているように見せかけている農地は意外とある」と打ち明ける。

生産緑地制度への疑問も

かくも問題のある生産緑地は今後どうなるのか。

長年、都市部の農地を見守ってきたJAの関係者は、「10年前とは比較にならないほど、都市農地に対する理解が深まってきた」と語る。体験農園などを通して、都市部で農業に触れる人も増えてきた。官民を挙げて、都市に農地を残そうとする機運も高まりつつある。

一方で「生産緑地の税優遇に対し、こころよく感じていない人も多い」(農水省)。生産緑地の耕作放棄や偽装耕作のような事例が放置されれば、生産緑地制度自体に疑義をとなえる人が出てくる可能性も否めない。

2017年4月には生産緑地法が改正された。30年経過後は「特定生産緑地」となり、更新は10年単位となる。束縛期間が短くなったことで、監視・罰則の強化が打ち出されてもおかしくはない。ただ、実際の運用は5年後。その前に、自らの襟を正すべきではないだろうか。

筑紫 祐二 東洋経済 記者

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ちくし ゆうじ / Yuji Chikushi

住宅建設、セメント、ノンバンクなどを担当。「そのハラル大丈夫?」(週刊東洋経済eビジネス新書No.92)を執筆。

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