シンガポール航空「空飛ぶ高級ホテル」の全貌 超大型機「A380」の最上級クラスを全面刷新

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シートの刷新とあわせて座席構成も大きく見直した。A380の2階にスイート6室、ビジネスクラス78席、1階にプレミアムエコノミー44席、エコノミークラス343席と、合計で従来より30席多い471席とした。スイートを減らした分、特にビジネスは従来より席数を3割増やすなど、「収益機会を増やせる構成になっている」(ゴーCEO)。

A380が搭載するプレミアムエコノミークラス(写真)やエコノミークラスの座席も刷新されている(記者撮影)

シンガポール航空は今、かつてない苦境に陥っている。2017年1~3月期には約1億3830万シンガポールドル(約114.3億円)の最終赤字を計上し、四半期としては5年ぶりの赤字転落となった。燃油費の上昇に加え、打撃となったのが旅客単価の下落だ。同四半期のイールド(旅客1人を1キロメートル運んで得る収入)は前年同期比で4.7%減り、通年では同3.8%減だった。

A380でアジアの価格競争に対抗

アジアの航空競争は激しさを増している。営業、マーケティングなどを統括するコマーシャル担当副社長のマック・スゥイー・ワー氏は、「中東勢や中国勢、それにLCC(格安航空会社)がどのようにアジア市場で攻めているかを注視しなければならない」と指摘する。今回のA380の機内設備刷新は、価格競争とは対極のプレミアム戦略を徹底する姿勢の表れといえる。

フルサービスキャリアとして品質を高めるため、シンガポール航空は客室乗務員らの訓練も厳しい(同社トレーニングセンターにて記者撮影)

2017年7~9月期の決算は、純利益が1億8900万シンガポールドル(約158億円)の黒字となり、前年同期比で3倍に跳ね上がった。旅客数が増えるなど需要は堅調だったが、それでもイールドの下落は止まらず前年同期比で2%減った。

今年5月からは3カ年計画で「トランスフォーメーション(事業変革)」を進めている。専門部署も立ち上げ、まずは需要と密に連動する運賃設定などを可能にした新たなレベニューマネジメント(収益管理)システムを導入するなどの取り組みを始めた。11月8日の決算説明会でゴーCEOは、「少しずつ成果は出始めている」と自信を見せた。

シンガポール航空は再び上昇気流に乗ることができるのか。そのブランド力で一目置かれてきた名門エアラインに今、一層の注目が集まっている。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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