スタバも撤退した豪州でアマゾンは勝てるか 地元書店はアマゾン本格進出に微妙な面持ち
「価格の問題ではない」と、ナッシュは言う。カナダやオーストラリアなど人口が少なく、広大な土地に散らばっている国ではなおのことだ。オーストラリアは人口2400万人だが国土面積は米国とほぼ同じだ。ナッシュは「物流の問題だ」と言う。
ニールセンの統計によると、1人当たりの書籍購入数はオーストラリアでは米国よりも多く、読書時間もより長い。
独立系出版社テキストの発行人マイケル・ヘイワードは、オーストラリアはアマゾンと平和的に共存できるだけの独立性を築いているだろうと言う。「両方がいい思いができると信じたい」と、彼はメルボルンのオフィスで語った。
2つの悪いシナリオ
しかしヘイワードの冷静さと、アマゾンが書籍の売り上げに貢献するという期待の裏側には、大きな懸念もある。
『監視国家』などで知られる作家のアナ・ファンダーは、「私たちの思考をグローバルなアルゴリズムのナルシシズムに委ねるのはやめよう」と、昨年開かれた書店業界のカンファレンスで警告した。
「本の業界で働く人々は、単なる商取引の担い手ではなく文化の仲介者だ」と言うのは、『Cloudstreet』などの著書があるオーストラリアで最も著名な作家の1人、ティム・ウィントンだ。「文化の仲介者としての役割を奪い、資本主義の担い手に変えてしまえば、ダイナミクスが変化する」。
書店や作家、独立系出版社、著作権を専門とする弁護士らに話を聞いたところ、最悪なシナリオが2つ浮かび上がった。
1つはより現実味があると考えられているもので、アマゾンがオーストラリアの大手出版社に対し、法外な値下げと高速な配送を要求し、価格と作家の印税が低下、さらには独立系書店の注文が冷遇されることだ。
「アマゾンは交渉を支配している」と、シドニーのグリーブックスの共同経営者デービッド・ガウントは言う。「アマゾンが(ブッカー賞を受賞したオーストラリア人作家の)リチャード・フラナガンの新作を9.99ドルで販売すれば、私たちは1冊も売ることができないだろう」。
もう1つの悪いシナリオは、アマゾンがオーストラリアの労働や税、輸入に関する法令を同社に有利なものにする策を見つけることだと、書店や作家は指摘する。
アマゾンは欧州で行っているように、従業員に株式を付与することで法人税の減税を図るかもしれない。弁護士やコンサルタントはアマゾンがほかにどんなことをしてくるかと思案する一方で、政府に働きかけている。
政府は今のところ自国を保護する姿勢を見せており、7月からは1000豪ドル(約8万7000円)以下のオンラインでの買い物にデジタルサービス税が新たに課されることとなった。ネットフリックスやイーベイ、アマゾンもこの影響を受けるだろう。