「貧困を脱した沖縄女性」が語る壮絶なる貧困 幼少時代はツナ缶と庭のヨモギが夕飯だった

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さらに深刻といえるのが、子どもの貧困だ。2016年4月、沖縄県は子どもの貧困率29.9%という衝撃の発表をした。全都道府県では6人に1人といわれた子どもの貧困は、沖縄は約2倍の数値であり、3人に1人が貧困状態で暮らしている。

新垣さんは母子家庭で育った。離婚と出来ちゃった婚が多い沖縄では、決して珍しくない母子家庭ともいえる。出身中学校では「母子家庭が半数を超えた年度もあった」という。そんな“沖縄の一般家庭”で育った彼女が、どのような生活をしてきたのかを聞いた。

中学生でアイスクリーム売りのバイト

「物心ついた頃には父親に愛人がいて、家に帰ってこなかった。母は働いていましたが、私が小学生のときに脳梗塞で倒れた。お父さんは入院治療の保険金を持って逃げて、それで離婚です。母親はそれから非常勤で働いたり、働かなかったり。姉は中学生からバイト。沖縄では家族全員、なんとかおカネを集めて生活するんです」

沖縄県の最低賃金は1時間714円(2016年10月〜)と全国で最も安く、この賃金だとフルタイムで働いても生活保護の水準までは稼げない。自分自身の収入だけで独立して生活することは難しく、3世帯で暮らすのが普通だ。祖父や祖母から孫までが働き、合算して暮らしていける世帯収入を稼ぐ。新垣さんの家では小学校を卒業して中学生になったら家計を助けた、という。

「家におカネは本当になくて、中学生ができるアイスクリーム売りのバイトをしました。中学生は日給4200円、高校生は4800円。最低賃金以下なので違法でしょうけど、家が貧乏で不良じゃない中学生には、そういう仕事がまわってくる。それをやりました。ある場所に何時に集合って言われて、車に乗せられて『君はここ、君はここ』って路上でアイスと一緒に降ろされるんです」

沖縄県は成人式の異様な風景が全国的に有名だが、母子家庭の多い沖縄は不良やヤンキーが多い。理由は親が家にいないからだ。新垣さんは極めてまじめな中学生だったが、兄と姉はグレた。

「私はイジメられるようなタイプですけど、兄の威光があったので助かりました。不良に絡まれたときも、兄の名前を言ったら助かりました。兄がいなかったら500円とか1000円とか、おカネを取られていたと思う。そういうカツアゲされたおカネが、また取ったほうの家の家計の足しになるんです」

新品の制服はとても買えない。姉の制服、体操着はお下がりだ。家族は仕事に出ているので、夕飯もない。姉は彼氏の家で食べて、兄は深夜まで帰らない。家にシーチキンの缶詰があり、庭に生えてるヨモギと、お中元とかでもらうお米を炊いて弟と食べた。

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