性善説?富山ライトレール「信用降車」の挑戦 導入の理由は「富山人はまじめだから安心」

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同社が使っているICカードは「Passca(パスカ)」という専用のもので、SuicaやICOCAなど他の事業者が発行したカードでは乗り降りができない。ただ、「Passca」の利用者は一律運賃が1割引き、高齢者なら日中半額となる特典がある。日中の時間帯は「現金での乗車客も2割程度いる(広報担当者)」とのことだが、地元の人々はICカードによる優遇運賃のおかげもあり積極的にキャッシュレスで利用しているという。

ロンドンのドックランズ・ライト・レイルウェーで使われている改札機。乗車前と降車後の2度タッチする(筆者撮影)

では、諸外国ではライトレール(LRT)での課金はどう行われているのか、実例を紹介してみよう。

LRTは路線によって、ワンマン運転どころか完全無人(ドライバーレス)、つまり遠隔管理のエレベーターを動かすように車両が走っているようなところさえもある。つまり、無賃乗車を防ごうとしても、つねに乗務員がいるわけではないため、その犯人を捕獲するのはとても難しい。

欧州を走るLRTのうち、ICカードを導入している路線では次のような手で確実な課金を目指している。具体例としては、ロンドン東部に30km超の路線網を持つドックランズ・ライト・レールウェー(DLR)や、アムステルダムを含むオランダ各都市を走る路面電車(トラム)などがある。

【ICカードを使ったLRT課金の取り組み】
・ICカードを1度センサーにタッチ。
・ICカードからはいったん、運行路線での最高額を引き落とす。
・下車時にもう1度、センサーにタッチ。乗車区間と最高額との差額を戻す。

 

この方法では、乗車中の利用客が持つICカードに「課金済みを示す情報」が読まれているため、抜き打ち検札を車内で行った場合、もし未払い(無賃乗車)客がいたらその場で不正が発見できるという利点がある。

これらのLRTでは紙の乗車券を併用しているところもある。紙の切符保持者なら、検札の際にそれを提示するだけのことだ。

合理的な運賃収受システムの形成を

日本ではかつて、多くの大都市で路面電車が走っていた。ところが車社会の到来、モータリゼーション化により、道路の物理的スペースが逼迫。路面電車の軌道は邪魔とされ、廃止の流れが本格化した。ところが今では逆にLRTの導入をあらためて検討する自治体が増えている。しかし、発覚時に運賃の10倍もの罰金を課すこともある諸外国と異なり、日本では罰則時の課金は運賃の3倍以内にすぎないことから「運賃を取り切る自信がない」などの理由により、LRT導入に腰が引きぎみ、との研究結果も出ている。

日本における無賃乗車等の罰金規定を変えることは難しいかもしれないが、ICカードを使って「乗車時に最高額を徴収し、下車時に精算」といった仕組み作りは、課金システムの設定を改良することで解決しそうな気がする。欧州では残念なことに、無賃乗車を企てる者が少なくないが、それでも公共交通機関の運営はしっかりと成り立っている。

他国の事例を参考に、利用客の善意に依存する形と違う、合理的な運賃収受システムを構築すべきだと考えるがどうだろうか。運賃がしっかり取れる仕組みが確立したら、環境にも人にも優しいライトレール敷設の動きが日本でさらに高まるかもしれない。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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