全男性が持っている「痴漢トリガー」とは何か 満員電車で作動すると、もはや制御不能に
――既婚者ということは、女性に接する機会が少ないから痴漢をするわけではない?
そうです。結婚イコール夫婦間の性的関係が維持されているというわけでありませんが、夫婦のセックスレスと痴漢行為に相関関係はありません。
――痴漢は性欲をコントールできない人がするのでしょうか。
そうとは言い切れません。当クリニックが2013年に痴漢加害者約200人に聞き取り調査を行ったところ、「痴漢行為中に勃起していない」と回答したのは過半数に達しました。勃起していないということは、痴漢の動機が直接性欲を満たすためではないということになります。逆に言えば、性風俗店に通いつつ痴漢行為を繰り返していた人も一定数います。つまりほかの手段で性欲を発散しても痴漢行為の抑止にはならないのです。
――では、痴漢をしてしまう理由はなぜでしょう。
日常生活、特に仕事で起きるストレスが原因となることが多いようです。スポーツやカラオケをしたり、おいしいものを食べたり趣味を通してストレス解消する人が大半ですが、中には仕事量の多さや営業ノルマのプレッシャー、あるいは家庭内の不和のストレスから痴漢行為に耽溺してしまう人もいます。また、痴漢をする人は日本人だけとは限りません。母国ではまったく性犯罪歴がないのに、日本に長期滞在しているうちに痴漢行為を覚えてしまうエリート外国人サラリーマンもいます。ここでも、日本特有の満員電車通勤という環境的要因と、慣れない国での生活や男尊女卑的価値観などの心理社会的要因が背景にあると考えられます。
"ビギナーズラック"に要注意
――痴漢をする人としない人の違いは?
痴漢をするトリガーとなるものがあります。さまざまなトリガーがあり、類型化は難しいのですが、強いて言えば、言葉は悪いですが“ビギナーズラック”がトリガーとなる人が一定数います。たとえば、満員電車に揺られているうちに、たまたま手の甲が女性のお尻に触れてしまった。ところが、女性は無反応だった。このとき男性の脳内には大量のドーパミンが分泌され、衝撃的な快感を覚える人がいます。当クリニックの受講者はこの状態を痴漢行為の「スイッチ」が入ったと表現することが多いです。
このスイッチが入った人は女性が無反応だったので、「ばれない」「意外と簡単」あるいは、「女性は嫌がっていない」と思い込んでしまいます。これを「認知の歪み」といいますが、これに味をしめて最初は列車の揺れに合わせて触るなど偶然を装いつつ、回数を追うごとに少しずつ意図的な接触の度合いを高めていくのです。「ばれたら大変だ」というスリルとリスクがさらに快感を助長させていきます。
そして、最初は衣類の上から触っていたのが下着の中に手を入れる、あるいは月1回の痴漢行為が週1回、1日おきへとエスカレートしていきます。『犯罪白書』平成27年版によれば、はじめて痴漢をした人の平均年齢は33.1歳、痴漢で逮捕された人の平均年齢は41.4歳。つまり、このデータからも初めて痴漢をしてから逮捕されるまでに何年も経っていることが読み取れます。それだけ膨大な被害者の数がいるということです。
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