サブプライムの震源・米住宅金融公社救済策の効果と限界

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 ポールソン・米財務長官が7日日曜日の午前11時(日本時間8日0時)に、住宅金融公社であるファニーメイとフレディマックの政府支援法人(GSE)2社の救済を発表したが、その金融市場全体に対する効果は1日しかもたなかった。

株価は、8日発表直後に取引を開始した日本では日経平均で1万2624円46銭と412円の大幅な上昇となったものの、NYダウは1万1510ドル74セントで、290ドル上昇にとどまった。また、9日の日本は早くも買い戻し一巡感が出て、1万2400円65銭に反落、NYダウは、OPECが原油生産枠を据え置くとの観測や、財務内容の悪化している米大手証券リーマン・ブラザーズに対するKDB(韓国産業銀行)による資本支援の難航が伝ええられ、1万1230ドル73セントとGSE発表前の水準に急落してしまった。

これは、企業の信用力を反映したクレジット市場でも同じことで、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ、企業がデフォルトした場合の損失をカバーするためのデリバティブ取引)市場や社債市場での、信用スプレッド(信用力を反映した利ザヤ)は8日には縮小したが、9日には再び拡大している。

その背景を考えてみよう。

ファニーメイとフレディマックは、住宅ローン債権を買い取って証券化したり、民間が証券化した商品の保証を行ったりしている。その額は、米国でのRMBS(住宅ローン担保証券)発行残高約12兆ドルのうちの約5兆ドル。また、独自に社債も発行しており、合計で6.2兆ドルが流通している。これらは、米国債の発行残高4.5兆ドルよりも多く、しかも、「暗黙の政府保証」がついているとみなされ、投資家はこれを、米国債とほぼ同様の信用力があるものとして、買っていた。そのため、両社の信用不安に伴い、7月に、米政府当局とFRBは、2社を支援する方針は発表していたが、具体策の提示や実行には踏み切っていなかった。

今回、具体策が出てきたのは、いつまでも2社の信用不安がくすぶり、両社の調達金利の上昇や株価下落が続いているなかで、「保証」だけを明言している状態では、米国債や基軸通貨ドルへの信認の急低下という事態も招きかねなかったからだ。

今回の政策は、2社の優先株の購入枠として1000億ドルずつという巨額な資本枠を準備するとし、NY連銀は短期の資金繰りに窮したときのための低利の貸し出し枠も用意するもので、2社の救済策としては、とりあえずは、効果的である。

しかし、問題は残る。最大の理由は、住宅価格が下げ止まらず、その影響としての米国の消費の悪化、ひいては景気の後退は続いていることだ。こうした状況に伴う銀行の貸し渋りや社債市場での調達コストの上昇、株価の下落などのカネ詰まりも続く。つまり、実体経済の悪化と金融市場の信用収縮とのスパイラルという事態は、2社の問題が落ち着いても、続く。

さらに、住宅価格が下げ止まらないということは、住宅ローン債権を保証している2社の負担も続くので、今回、とりあえず、10億ドルずつの優先株の形で、米財務省が資本注入するものの、また、財務状況の悪化が繰り返され、両社への公的資金注入額はダラダラと膨れ上がっていく可能性が高い。

日本でも、1998年から開始された銀行への公的資金投入では問題は解決せず、地価や株価がどん底になった2003年のりそな銀行への公的資金注入まで政府支出が続いた。したがって、今後も2社の決算のたびに、金融市場は警戒するし、また、大手の金融機関や財務の弱い地銀の決算前には、金融市場がナーバスになる状態からは脱却できない。本日のリーマン・ブラザーズの第3四半期の決算の予想と再建策が注目される。

フレディマックとファニーメイの2社救済策に絡んで、9日から、俄然、金融関係者の間で注目が高まっているのが、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)市場での2社の扱いである。今回、米政府による2社の支援のなかで、経営者が更迭され、政府管理下におかれる。FHFA(連邦住宅金融局)から管財人(conservator)が派遣されるのだが、ISDA(インターナショナル・スワップス・アンド・デリバティブス・アソシエーション)というデリバティブの制度を整備している業界団体が、これが、信用事由(クレジット・イベント)に該当するとしたのだ。

信用事由の主なものは、倒産、支払い不能、リストラクチャリングとされるが、こうした事態になると、取引が清算可能になる。今回の例では、たとえば現物決済の場合、プロテクションの買い手が、保有する2社の債券を引き渡し、売り手に金銭(額面額など決められた額)の支払いを要求することが可能になる。投資家たちが予定していなかった早期のCDS契約清算が大量に起こる可能性があり、しかも、その想定元本は数十兆ドルなどと報道され、ハッキリしない。相対契約なので、トリガーが実際に引かれるかどうかはわからず、また、その場合の回収率を決定するISDAの計画書は10月初旬までかかるとされている。

清算されても、回収率は高くなる可能性が高いという見方が一般的であるようだが、問題は、またしても、CDO(債務担保証券)。シンセティックCDO(CDS契約を裏づけにした合成債務)には参照銘柄としてファニーメイやフレディマックが入っているものが多い。回収率が低いと、格下げになる可能性があるという。そうすればまた評価損拡大の要因が増える。こうしたことから、取引を行っている金融機関や機関投資家の間で不安が高まっている。

かつて、日本長期信用銀行が破綻したときにも、国際的なデリバティブ取引が問題とされたが、日本政府が保証を明言したため、クレジットイベントに該当しない旨を合意したという。
(大崎明子 =東洋経済オンライン)

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