福田首相辞任で危ぶまれる消費者庁の行方
福田康夫首相の突然の辞任劇。一気に政局が流動化する中で、危ぶまれ始めたのが消費者庁構想だ。「解散になったら、廃案の可能性もあるのでは」と全国消費者団体連絡会(全消団連)の阿南久事務局長は心配する。「国民目線」をキャッチフレーズにした福田首相にとって同構想は目玉。今年2月に消費者行政推進会議を設置して具体化に着手。「首相自ら会議にはすべて出席して意欲的だった」と委員が関心するほどの熱の入れようだった。20年前から消費者庁を提言する日本弁護士連合会(日弁連)も「消費者行政を強く押し出したのは福田首相が初めてでは」とその姿勢を高く評価する。
民主は「権利院」で対抗
消費者庁は消費者行政を一元化する新組織で、内閣府の外局として来年度の創設が目標だ。新年度予算では182億円が概算要求された。職員は208人。法律の企画立案など消費者行政の舵取り役を担うほか、全国の自治体が538カ所に置く消費生活センターの相談員3500人を通じて情報を集約、素早く対応して施策に反映する。幼児の窒息死が報告されるこんにゃくゼリーのように、所管官庁があいまいな問題も、これにより解消されるわけだ。
ただ、どれほど機能するか、疑問の声もある。移管される法律は29本。食品の表示方法を定めるJAS法など消費者に身近なものが対象だ。ただ、多くは各省庁との共管にとどまる。専門性の高い金融商品などについては、引き続き現在の所管官庁が検査や行政処分を行い、消費者庁はそれらに勧告するだけだ。それでも「一元化する専門組織が作られるのは長年の悲願」(全消団連)、「最初の一歩を踏み出すことが重要」(日弁連)と歓迎する声は多い。地方相談員の大幅な増員や、違法収益を吐き出す新法が制定されれば、消費者保護に向け、将来的には強力な官庁になる可能性もある。
が、こうした政府・与党の構想には、ただでさえ民主党が難色を示すのが実情だ。「共管では二重行政。日弁連や消費者団体など民間にも職員になってもらう」と予算1000億円、相談員7000人超の大規模な「消費者権利院」の構想を打ち出す。「内閣府から独立して権限行使を促す機関が民主党案。ただし消費者庁との共存は可能」と微妙な言い回しだが、政府案に反対の立場に変わりはない。
首相案件では不吉な先例がある。安倍前首相の肝いりでスタートした地域力再生機構は2月に国会に法案が提出されたものの、採決にもかけられず継続審議となった。もともと必要性を疑問視する向きもある政策だが、一方では今年度予算で出資金100億円と政府保証枠1・6兆円が計上されている。今度の臨時国会で法案が通らなければ“流産”となるおそれが強い。
これには安倍首相の退陣が影響したとの指摘もある。が、霞が関ではこんな声も聞かれる。「労働者に優しい再生機構は民主党にとって本来賛成のはず。が、与党に賛成することもできず、政争に利用された」。辞任表明の翌日、消費者行政推進会議の原早苗委員は、野田聖子消費者行政推進担当相と面会した。その際、「福田総理の思い入れが強い法案なので、次の総理にも申し送りする」と約束されたという。だが、政治の世界は一寸先が闇。消費者庁が地域力再生機構と同じ不運に遭遇する可能性は否定できない。
(前田佳子、許斐健太、高橋篤史 =週刊東洋経済 写真:尾形文繁)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら