渋谷がいつの間にか「池袋化」している理由 渋谷を渋谷たらしめた文化は影を潜めた
かつては渋谷に店を出すことは流行の発信地に拠点を置くという意味があったが、今の渋谷は池袋のように「流行を消費するまち」になりつつある。特に独自性を売りにしたいと考える企業にとってはあえて選ぶような魅力ある立地ではなくなっているのだ。
こうしたコモディティ化には渋谷の盟主、東急電鉄も危機感を抱いている。勢いのあった頃の渋谷には、アーティストや各種フリーランス、アパレルやIT、デザイン系などの小規模事業者が多く集まっており、そうした人たちが活気を生み出していた。それをなんとか再現できないか、そうした試みがヒカリエ以降見られるのである。
ヒカリエの場合には8階にコワーキングスペース「Creative Lounge MOV」が造られており、2017年4月にキャットストリート入り口にオープンした渋谷キャストには1~2階にシェアオフィス、2018年秋オープン予定の渋谷駅南街区の渋谷ストリームにもインキュベーションオフィスが予定されている。少しでも安く、多くの人が渋谷にオフィスが持てるようにする工夫である。
「渋谷圏」を広げようとする試み
また、再開発そのものにも渋谷圏を広げ、周囲のまちの多様性を取り込みたいという意図がある。渋谷は地名のとおり、谷。これまでは地形の制約から周囲に拡大できなかったが、再開発では谷の外側にもタワーを建てることで周囲をつなげようとしているのである。
それがよくわかるのは前述の2棟と周囲との位置関係から。渋谷キャストは再開発エリアの北端、キャットストリートを経て青山、原宿をつなぐ地点に位置し、すぐのところには地下への入り口がある。地下を抜けて再開発エリア南端の渋谷ストリームまで行くと、そこから代官山までは渋谷川沿いに遊歩道が用意される。
これによって青山、原宿から代官山までが渋谷を介してつながる。同様に開発エリア西側の南平台からは、高級住宅街である青葉台、代官山が近い。渋谷中心部が再開発で大型ビルばかりになったとしても、こうした周辺部に中小規模のビルが残っていれば、全体としては小規模事業者、個人営業店などが残り、活気が保たれるのではないかというわけである。
渋谷区や地元も若者には店を出せない、住めないまちになってしまった現状を打破しようと模索しており、そのひとつの試みが2017年8月5日に渋谷109周辺で公道を封鎖して開かれた「渋谷盆踊り大会」だ。渋谷を再び、訪ねて楽しいまちにしたいという意図である。
だが、住む人、訪れる人が触れ合う場を作ろうにも、渋谷駅周辺には多くの人が集まれる空間はない。だったら、公道を封鎖して場を作ろうというわけだ。初回は幸い、3万4000人もの人が訪れ、新たな渋谷を楽しんだようだが、こうした努力の継続が渋谷を再び輝かせることができるか。長らく渋谷を庭としてきた身としては、少なくとも利便性プラスアルファの個性あるまちとして再認識される日を期待したいところである。
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