アサヒ秘蔵っ子「ウィルキンソン」がバカ売れ 日本発祥の炭酸水はなぜ急成長しているのか

拡大
縮小

そこでアサヒ飲料は、それまで瓶入りのみだったウィルキンソンに、2011年にPETボトル入りを追加。「そのまま飲む、“直飲み”という新しい飲み方を提案したことで、急激に売り上げが伸びた」(水上氏)。

もう1つ、数量拡大の要因には健康志向がある。国内の飲料市場全体は2016年に約5兆円(富士経済調べ。以下同)。そのうち有糖も含む炭酸飲料の市場規模は約5560億円で1割ほど。2012年の5376億円からほぼ横ばいが続いている。

一方で、糖類を含まないミネラルウォーターや緑茶は市場そのものが拡大傾向にある。無糖の炭酸飲料も、市場としては360億円と決して大きくはないが、2012年の179億円から2倍以上に増えた。その中でもウィルキンソンは50%超と圧倒的なシェアを誇っている。

実は日本発祥のウィルキンソン

今年4月から放映しているテレビCMではディーン・フジオカ氏を起用。40代男性をターゲットとしている(写真:アサヒ飲料)

急成長するウィルキンソンだが、実はそのブランドの歴史は古く、しかも日本発祥だ。

アサヒビールの社史によれば、1889年ごろ、英国人のジョン・クリフォード・ウィルキンソン氏が兵庫県の山中で炭酸水鉱泉を発見。ウィルキンソン社を設立し、鉱泉を瓶詰めして「仁王印ウォーター」として販売を開始した。1904年には製品名を「ウヰルキンソン タンサン」に変更している。

その後、第2次世界大戦中に同社は「外国人の財産」として政府の管理下に置かれた。その際に政府はアサヒビールの前身となる大日本麦酒に経営を委託していた。こうしたつながりもあり、1951年にウィルキンソン社が製造を、大日本麦酒から分割された朝日麦酒が販売を行う体制となる。

1970年代後半になると製造と販売が2社に分かれていることのデメリットが顕在化。数年に及ぶ協議の末、1983年には朝日麦酒が商標権を取得し、ウヰルキンソンの製造・販売を一元化して行うことになった。そして1989年、表記を「ウヰルキンソン」から「ウィルキンソン」に変更し、現在に至っている。

ウィルキンソンについて水上氏は「日本のブランドだということを知らない人がほとんど。意図的に日本ブランドだということを全面には出さないようにしている」と話す。

10年以上前までは業務用として主にバーなどで消費され、知る人ぞ知るブランドだった。当時のイメージを崩さずブランド価値を高めることで、消費者のリピート率を高めたい考えだ。

とはいえ、炭酸水を日常的に飲む人はまだ少数派。アサヒ飲料の推定では、消費者の6割ほどが日常的に無糖の炭酸水を飲まないという。そういった非飲用層に向けて、2016年にコーラ味の「ウィルキンソン タンサン ドライコーラ」を発売。日常的な飲用への足掛かりと位置づけた。

無糖炭酸水は、リピート率は高いものの新規で飲み始める人が少ない。アサヒ飲料は夏場の暑い日に屋外でサンプリングなどを行ってはいるものの、初めて飲む消費者の中には苦手な人もまだ多いという。

今の伸びを継続させていけるかどうかは、炭酸水を日常的に飲む人をどれだけ開拓していけるかがカギになる。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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