世界のエリートが「美意識」を鍛える根本理由 質の高い意思決定を継続的に行う基盤とは?

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つまり、グローバル企業が世界的に著名なアートスクールに幹部候補を送り込むのは、これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできないという認識があり、単なる教養を身につけるためではなく、極めて功利的な目的のために「美意識」を鍛えているというのである。

本書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の執筆にあたって、著者が多くの企業・人にインタビューした結果、そのように考える具体的な理由として共通して指摘されたのは、次の3点だと言う。

「良い」「悪い」を判断するための認識基準

先ず、最も多く指摘されたのが「論理的・理性的な情報処理スキルの限界」である。最近、「VUCA」という単語をよく目にするが、これは「Volatility=不安定」「Uncertainty=不確実」「Complexity=複雑」「Ambiguity=曖昧」という、今日の世界の状況を表す4つの単語の頭文字を組み合わせたものである。問題を構成する因子が増加し、かつその関係が動的に複雑に変化するようになると、この論理や理性だけに頼った問題解決アプローチは機能しない。 今、ビジネスの現場はそのような状況に置かれているのだという。

2つ目が、「全地球規模での経済成長」が進展しつつある中で、世界は巨大な「自己実現欲求の市場」になりつつあり、そこにおいては、精密なマーケティングスキルを用いて論理的に機能的優位性や価格競争力を形成する能力よりも、人の承認欲求や自己実現欲求を刺激するような感性や美意識が重要だということである。

ノーベル経済学賞を受賞したロバート・フォーゲルは、「世界中に広まった豊かさは、全人口のほんの一握りの人たちのものであった『自己実現の追求』を、ほとんどの全ての人に広げることを可能にした」と指摘しているが、正にそうした時代が到来したということである。

3つ目が、現在、社会における様々な領域で「法律の整備が追いつかない」という問題があり、システムの変化に対してルールが事後的に制定されるような社会において、明文化された法律だけを拠り所にして判断を行うという考え方、いわゆる実定法主義は、結果として大きく倫理を踏み外す恐れがあるということである。

そのような世界においては、質の高い意思決定を継続的にするためには、明文化されたルールや法律だけを拠り所にするのではなく、自分なりの「真・善・美」の感覚、つまり「美意識」に照らして判断する態度が必要になってくるというのである。

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