ASEANとの経済連携協定を軸に東アジア共同体を構築せよ!

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経済連携に関するわが国の課題

 日本の諸外国との経済連携について、私が懸念するのは「戦略の欠如」です。特に韓国と比較すると、戦略の乏しさが目立ちます。

 そもそもわが国には、「科学的な分析に基づく戦略の作成」を行なえる研究機関がありません。経済産業研究所が研究はしていますが、傍から見ていると俗人的な研究者個人の興味として行なっているように見えます。また、経済産業省との連携も取れていないようです。韓国は大学に研究センターを設置し、自国のみならず海外の頭脳までも集め、経済連携の戦略を創っています。私もそうした必要性を感じます。戦略を構築するには、「経済連携協定の経済効果の科学的な分析」のみならず、ODA(途上国政府援助)や資源の確保・食料の確保までも含めた包括的な外交戦略の分析にまで踏み込む必要があるのです。

 次に重要なことが、「戦略の実施」です。今の政府の状況を見ると、「攻める経済産業省」「守る農業水産省」「国内省庁を調整する外務省」といった役割分担が垣間見えます(実際そうでしょう)。しかし、外務省が対外との交渉に集中することが必要です。

 韓国は外交部に通商部門を移管し、外交通商部に省を再編して、FTAに当たっています。わが国も省庁を調整する専門の部門を作ることが必要かもしれません。個人的には、経済連携戦略本部を総理大臣直轄で設置し、経済連携協定の締結のみならず、エネルギー・食料安全保障、ODAの活用なども含めた戦略の構築、そして農業をはじめとする国内産業の競争力(生産性)の強化を進めるべきだと考えています。


農業の競争力

 戦略といったマクロの視点以外に、ミクロの視点として「農業問題」があります。今回のASEANとの交渉を見ていると、相変わらず農業の中でも「お米は枠外」となっており、他にも対象外の農産品が列挙されています。農業関係は防御一辺倒になっているのです。

 今後、経済連携を他国に拡大するにあたっては、わが国の農業の国際競争力の抜本的な強化が欠かせません。最終的には、アメリカと経済連携協定を締結すべきです。そのためには、すでにアメリカとの間でFTAの締結に合意した韓国のように、相当の負担を農業にかけることを覚悟しなければならないでしょう。

 農業水産省は、「国内の農業の生産性を大幅に向上させるとともに、経済連携協定に食料の優先提供などの条項をいれ、食料安全保障に経済連携協定を活用する」べきだと考えているようですが、いかがでしょうか。

藤末健三●ふじすえ けんぞう
1964年熊本県生まれ。東京工業大学卒業後、通産省(現・経産省)に入省。マサチューセッツ工科大学大学院、ハーバード大学大学院を修了。99年、東京工業大学で博士号取得。東京大学講師、助教授を経て04年参院選初当選。

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