カタール危機で「LNG取引」が大きく変わる 日本の電力会社にとって有利な展開に

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6月12日、アラブ諸国によるカタールの孤立化で、世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出国である同国と長期供給契約の見直し交渉を行っている日本の電力会社は有利な立場となった。写真は2月8日、千葉県富津市に停泊中のLNGタンカー(2017年 ロイター/Issei Kato)

Henning Gloystein

[シンガポール 12日 ロイター] - アラブ諸国によるカタールの孤立化で、世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出国である同国と長期供給契約の見直し交渉を行っている日本の電力会社は有利な立場となった。これにより、よりオープンなLNG市場取引に向けたシフトが加速しそうだ。

今回の定期的な契約見直し交渉で、もし世界最大のLNG輸入国である日本の言い分が通れば、米国などからの短期通知によるLNG供給契約が増え、数十年単位の厳格な長期契約に縛られる取引から、よりアクティブなスポット市場への移行が一段と進むことになる。

現在更新交渉が行われているのは、カタールが2021年まで年720万トンのLNGを日本に供給するという内容の契約だ。年額約28億ドル(約3080億円)に上るこの取引では、東京電力ホールディング<9501.T>と中部電力<9502.T> の共同出資会社で、世界最大のLNGバイヤーであるJERAが主な輸出先となる。

「危機が勃発して以降、日本側は契約のすべての更新はしない立場を取っており、より柔軟な合意内容を獲得すべく攻勢をかけてくるだろう」と、 LNG契約のアドバイザーの1人は語った。

カタールと日本は、それぞれ輸出国と輸入国として、タンカー500隻で輸送される今年の世界取引量3億トンのうち、それぞれ約3分の1ずつを占めている。この2国間の取引に変化があれば、1970年以降維持された貿易慣行がすでに変化にさらされているこの業界を、さらに大きく揺さぶることになる。

この状況は、2008年から2014年にかけて欧州で起きた出来事とある面で似ている。経済危機に加え、ロシアと欧州の緊張が高まるなか、欧州の電力各社は天然ガスの供給契約を再交渉し、スポット市場からの供給を増やした。

日本とカタールは、3本の供給契約について更新交渉を行っているが、その内容の一部が調整される、もしくは、バイヤー側の日本が、期限切れを迎える契約の一部しか更新しない可能性がある、とこの件についてよく知る3人の関係者が明らかにした。

日本側の関係者は、個別契約についてコメントはしなかったものの、一般的に供給契約は5年ごとに見直されていると語った。

現在交渉が行われている契約は、1997年、1998年と2012年にそれぞれ締結されており、2021年に期限が切れる。

カタール国営石油会社カタール・ペトロリアム(QP)は、取材にコメントしなかった。

<攻守逆転>

LNGの生産量は、2015年の2.5億トンから、昨年は2.6億トンに増加した。生産国は12カ国前後だが、カタール、オーストラリア、マレーシアの3カ国が全体の半分以上を生産している。

2016年にLNGを輸入したのは39カ国と、前年から4カ国増えており、世界消費量の70%がアジアで消費されている。

新参の生産国との競争に直面したカタールは、日本との契約交渉に際して強硬姿勢を取り、契約内容の大幅な変更を求めるならば、LNG事業から日本企業を排除する可能性も示していた。

だが、サウジアラビア、エジプトやアラブ首長国連邦(UAE)などのアラブ諸国がカタール(訂正)との国交を断絶し、交易をボイコットしたことでカタール(訂正)の交渉力は弱まり、攻守が逆転した。

米国企業で唯一LNGを輸出するシェニエール・エナジー<LNG.A>は、代替の供給元として名乗りを上げている。

「今回の騒動によって、仕向地の縛りのない米国産LNGが、個別バイヤーにもたらす供給の多様性と柔軟性の価値が改めて示された」と、シェニエールの広報担当者はコメントした。

他の輸出事業者と異なり、シェニエールは、バイヤーが購入したLNGを転売することを認めている。

カタール危機により、「信頼性の理由から、国際的なバイヤーが、米国産LNGからの供給を増やすことになるだろう」と、ヒューストンを拠点とするゲルバー・アンド・アソシエイツのケント・バヤジトル氏は予測する。

<拡大するLNG貿易>

LNGの取引には、生産者と輸入業者だけでなく、商品取引会社の参入も増えている。

供給が需要を上回る状態なため、タンカーに積み込まれず滞留するLNGも多く、アジアのLNGスポット価格は、2014年以降70%以上下落し、1英熱量単位あたり6ドルを下回るまで低下した。

豪石油・ガス大手ウッドサイド・ペトロリアム<WPL.AX>や英蘭系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェル<RDSa.L>などの生産者は、自社のLNGを市場に乗せるため、より柔軟な契約を結ぶ用意があると表明している。

LNG輸入者国際グループ(GIIGNL)によると、LNG供給量のうち、2016年には前年比3ポイント増の18%がスポットで取引された。

ロイターの非公式調査では、業界専門家30人の半数以上が、来年末までにアジアのLNG取引の25%以上がスポット市場で取引されると予測した。そして、もし日本がカタールから譲歩を勝ち取れば、この割合はさらに早いペースで増加すると関係者は見ている。

こうした動きに備え、商品取引会社はLNG取引を強化している。

巨大石油取引商社のビトルやスイスの資源大手グレンコア<GLEN.L>は今年、LNGのスポット取引が向こう18-24か月増加すると見ていると予想。

ビトルは、同社のLNG取引量が、2016年の300万トンから今年は450万トンに増加すると予想している。

日本の商社も、国内の電力事情の変化を念頭に、より多くのスポット取引に備えている。

三井物産<8031.T>の加藤広之副社長は6月1日、ロイターとのインタビューで、LNGのスポット取引拡大に合わせて、トレーディング部門を強化する方針を表明した。

加藤副社長はLNGのスポット取引が「増える傾向にある」との認識を示した上で「LNG部隊を拡充する方向でやっていく。LNGトレーディングにも注力していきたい」と語った。

(Henning Gloystein記者、翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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