「各国の利害が絡み合い 複雑化する原油事情」ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ

かつての石油メジャーより国営エネルギー企業が優勢

 二つ目の特徴は、過去数年で急激な経済成長を遂げている中国を筆頭に、アジア諸国でのエネルギー需要が増大していることである。中国政府は、スーダンなど国際的に孤立した国と長期的な供給契約を締結することで、原油確保は可能だと見ている。しかし、それは近視眼的といえよう。スーダンにおけるダルフール問題のような外交問題が一度起これば、原油の供給など途絶しかねない。むしろ中国とインドに必要なのは、IEAに加入して原油の世界市場の参加者になることであろう。

 近年のエネルギー安全保障政策の三つ目の特徴は、原油価格が高騰し、備蓄が増加することで、産油国の権限が一層高まっていることだ。かつて“セブン・シスターズ”と呼ばれた民間の石油メジャーよりも、現在では産油国の国営エネルギー企業が多くの石油とガスを支配している。ロシアやベネズエラなどの国営企業の中には、市場の力などは意に介さず、政治的な目的のために価格決定権を行使している企業もある。

 また四つ目の特徴として、気候変動の問題も、より複雑に絡まり合っている。いまや気候変動は、国際レベルと同様、各国の国内レベルでも重要な政治問題となっている。海面の上昇やアフリカの干ばつは、人類の新しい脅威である。そうした中、エネルギーに関しても、供給先の確保のみならず、需要側の姿勢が問われている。

 たとえば今、石炭を液化して石油の代替製品とする技術開発が進められている。これは将来の安定的なエネルギー供給源になりえるが、石炭は原油より多くの二酸化炭素を排出するため、気候変動の問題を考慮すると、一概には推奨できない。実際、エネルギー確保を課題とする中国やインドにとっても、石炭液化技術の利用には、二酸化炭素排出を減らす新技術の開発が不可欠といえる。

 2007年、中国は温室効果ガスの排出量でアメリカを上回った。中国は石炭を使った火力発電所を毎週2基建設している。もはや世界のエネルギー事情は、エネルギー自給を高めるだけでは不十分である。エネルギーと環境の双方に目を向ける姿勢が必要なのである。

(C)Project Syndicate

ジョセフ・S・ナイ
1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。

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