自民党の「派閥」はなぜ求心力を失ったのか 「一強」時代の今、ひもといておきたい歴史

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自民党の派閥の変遷(1994年~) 注記:( )は派閥ではなくグループ  
出所:中北浩爾『自民党政治の変容』(NHKブックス,2014年)286ページに加筆修正

とはいえ、その当時、派閥は夏(6月)に氷代、冬(12月)にモチ代として年2回、それぞれ200万~400万円をメンバーに配っていた。党からも氷代およびモチ代が幹事長の手渡しで配布されたが、ほぼ同額あるいは若干少ない200万~300万円であった。また、国政選挙の際には、党が公認料として全員に1000万円ずつ供給したが、派閥も最低でも同額の資金援助を行っていたという。そのほか、派閥の幹部からの個別的な資金提供も、一定程度存在していた。

現在の政治資金を正確に把握することは極めて困難であるが、平成研究会、宏池会(こうちかい)、清和会といった派閥の政治団体の2015年の政治資金収支報告書によると、氷代とモチ代はそれぞれ50万~100万円であり、その前年を見ると、総選挙の際の資金援助は100万~200万円である。これは各派閥の関係者に行ったインタビューの内容とも符合している。派閥からメンバーへの資金援助が、少なくとも1980年代に比べると、大きく減少していることは疑いない。

所属する派閥への支出について見ると、会費は一律に月額5万円、年額でいうと60万円だ。また、派閥が開催する政治資金パーティ券の販売も求められる。ある派閥では、当選1回は50万円、2回以上は100万円、閣僚経験者は200万円が努力目標であり、それを超える分については寄付金として還付するというインセンティブを設けているという。当選1回で100万円、副大臣が130万円というところもあれば、おおむね200万~300万円、最高ランクで700万円という派閥もあると聞く。

総じて見るならば、派閥との政治資金のやり取りは、若手議員で収支が若干のプラス、もしくは均衡、中堅・有力議員になると負担のほうが多くなるようだ。少なくとも政治資金上、派閥への加入に大きなメリットがあるとはいえない。たとえば、武井俊輔衆議院議員は、こう語っている。「私は理念や伝統に魅(ひ)かれて宏池会に入っているのであって、カネだけで言ったら、ほぼトントンというのが実感です。だから入会しない人もいるのだと思う。入らないと資金が回らないのなら、みんな派閥に入りますよ」。

派閥の政治団体の収支報告書を見ると、春季に開催する政治資金パーティに全面的に依存していることがわかる。2015年の清和会の収入2億5073万円の70.7%、平成研の収入1億4233万円の76.1%、宏池会の収入1億9416万円の75.3%が、パーティ収入である(繰越金を除く)。1枚2万円のパーティ券を政治資金収支報告書に記載される20万円を超えて購入する企業や団体は少なく、派閥は収入源の確保に四苦八苦している。

政治資金制度改革のインパクト

派閥の集金力の減退の主たる原因は、政治改革にある。細川護煕政権の下で1994年、政党本位の政治を目指して、小選挙区制の導入を柱とする選挙制度改革が行われるとともに、政治資金制度改革が実施された。

内容は多岐にわたるが、重要なポイントの第1は、国家財政から政党に資金援助を行う政党助成制度の導入である。国会議員5人以上といった要件を満たす政党に対して、国民1人当たり250円、総額約309億円を、議員数と得票数に応じて配分する制度であった。当初、当該政党の前年の収入総額の3分の2が交付額の上限として設定されていたが、翌年の政党助成法の改正で「3分の2条項」は撤廃された。共産党を除く各政党は政党交付金への依存を深め、その配分権を有する党執行部の権力が増大した。

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