歴史を知識自慢で終わらせないための心得 「歴史が得意」には3つのパターンがある

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経営者やリーダーたちには、戦国時代の歴史を好む人が多い。彼らは重大な決断をしなければならない。自分の決定が会社や多くの人たちに影響を与える。自分を歴史上の人物と重ね、自分の思考や判断を歴史の経緯に照らす。そうして、その決断が本当に正しいかどうかを熟慮する。

その歴史知識で正しく分析するには?

では、その「分析型」だが、言葉で述べると簡単に聞こえるが、実践するのは非常に難しい。過去のパターンを未来にどのように当てはめて考えるかということは、その個人の判断力の問題となるからだ。いくら歴史に通じていても、個人の判断力が足りなければ、間違った結論しか出てこない。

たとえば、歴史の得意な人がよく口にする言葉のひとつが「清王朝末期」。清王朝は中国最後の王朝で、硬直した前例踏襲主義で滅びる。この前例踏襲主義を自分の会社などに当てはめ、「うちの会社は清王朝末期だ、もう滅びるしかない」と論評してみせる。

しかし、その会社は堅実志向で、何事にも慎重なだけであり、その経営手法は間違っていなかったりする。自分の新しいプロジェクトがリスクに満ち、受け入れられなかった不満を、前例踏襲主義という批判にすり替えて、自分の会社を「清王朝末期」ととらえてみたところで、それは何も真実をとらえたことにならず、かえって物事を大きく間違ってしまう原因となる。

これは正しい分析がなされていない例で、自らを「分析型」と見なすも、実際にはそのようにはなっていないエセ「分析型」である。多くの人が自分の都合の良いように安易に歴史を解釈してしまいがちだ(私自身もよくあるので、あまりえらそうにはいえないが……)。

一方、正しい分析がなされている例を見てみよう。実際に私が聞いた話だが、ある若いワンマン社長が社員たちとうまくいかず、衝突とイザコザを繰り返し、プロジェクトが前に進まなかった。

そんな折に、この社長は『貞観政要』を読んだ。『貞観政要』は中国の唐王朝の名君太宗と臣下の問答を記した古典で、今日でもリーダー学の教科書とされる。この社長はこう言った。

「太宗が臣下の忠言・良言を引き出すために、並々ならぬ努力をする、その姿に感動した。自分はそのような努力をせず、部下の非を責めることばかりしていた」

太宗は、臣下の魏徴が帝の過ちを直言するのを聞いて、怒りに震えることがあったが、そこで怒りをぶちまければ、以後、帝の怒りを恐れ、魏徴のように忠言する者はいなくなる。太宗が怒りを抑え、徹底した無私の心で臣下の言葉をよく聞き入れたのと同様に、この若い社長も感情をコントロールする術を学んだのだ。

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