欧州でも胎動見せる「大衆迎合主義」のうねり オランダの「EU離脱」は避けられたが

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●既得権益への攻撃……この手法で最も成功を収めたのはトランプ政権だろう。エリート層が集まる既得権益者の中には政治家や官僚、そしてメディアも含まれる
●仮想敵の設定、攻撃……ヒトラーが行ったユダヤ人への攻撃はその典型的なものだ。トランプ大統領は、メディア、メキシコ、イスラム教徒、グローバリズム、ウォール街という具合に次々と攻撃対象を拡大して人民の不安を誇張して、自分の支持率を上げてきた

 

トランプ政権のポピュリズムが、うまく機能していないことは一目瞭然だ。就任2カ月足らずにもかかわらず、数多くのスキャンダルと混乱を呼び起こし、何ひとつ実現できずにいる。ロシアとのスキャンダルなどで窮地に立たされ、ひょっとしたら弾劾裁判で失職なんていうストーリーがあるかもしれない。ポピュリズム政権を維持していくことはそう簡単ではないということだ。

ポピュリズム台頭は「EU」への不満?

いずれにしても、オランダは何とか乗り切ったものの問題はフランスだ。フランスのEU離脱を示す「フラグジット」が実現するのかどうかは微妙だが、いまなぜ欧州にポピュリズムの波が押し寄せているのか。その本質を知っておく必要がある。

簡単に言えば、EU加盟国は財政政策にせよ、経済政策にせよ、EUにその方向性を決められている。というよりも、ドイツの考える方向性に支配されている部分がある。そのドイツには貿易黒字と財政黒字という「双子の黒字」があり、EUを支えている。

オランダやフランスは、景気のさらなる回復を求めてもっと大胆な経済政策や難民対策のための財政出動をやりたいのだが、財政の悪化を招くためそれも許されない。言い換えれば、現状を打破するためには「EU離脱」を掲げる以外に、自国の窮状を救う手段がないと言っても過言ではない。

もっとも、トランプ大統領がドイツの貿易黒字を批判していたように、2016年のドイツの経常黒字は、東西統一後、最高水準となった。GDP比8.6%に達し、中国を抜いて世界最大の経常黒字国でもある。言い換えれば、ドイツの「一人勝ち」に対する不満が、EU加盟国全体に蔓延しており、欧州のポピュリズム旋風をあおっているともいえる。

今回のオランダ総選挙はあくまでも「欧州リスク」のハードルのひとつをクリアしただけだ。本丸は、あくまでもフランスの大統領選挙であり、ドイツの総選挙である。

実際、金融マーケットでは米国のFRBが金利を引き上げたにもかかわらず、オランダの下院選挙で極右政党が議席数を伸ばしたことで「金価格」が上昇。1トロイオンス=1220ドルを突破してきた。

フランスのルペン国民戦線党首は決選投票では勝ち残れない、という予想が大方をしめているが、ブレグジットにせよ米国大統領選挙にせよ、このところ選挙では「サプライズ」が続いている。

仮に、ルペン仏大統領が誕生し、EU離脱に動けば、EUは持たないとも言われる。金価格の上昇は、いわば欧州が抱えるEU崩壊危機のためのリスクヘッジ(回避)と言ってもいいだろう。

万一、ポピュリズム政権が選挙で勝利すれば、ドイツ国債やフランス国債などユーロ建て資産は大暴落(金利は急騰)、ユーロも、株価も暴落するはずだが、米大統領選ではトランプ氏が勝利した直後から「トランプラリー」と呼ばれる株価急騰、ドル急騰が始まった。つまり、未来のことは読めない、ということだが、欧州を中心としたポピュリズムの波はまだ始まったばかりだ。

民主主義国家にとって、ポピュリズムはロシアやイスラム国を上回る脅威であり、最も警戒すべきリスクなのかもしれない。戦前のポピュリズム政権の末路は「敗戦」だったことを忘れてはならない。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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