報酬カット続出 テレビ局襲う未曾有の危機

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テレビ局の経営陣が危機感を募らせている。

 テレビ朝日の君和田正夫社長は1日の定例会見で、役員報酬を平均12%カットすることを明らかにした。同社によれば、業績不振による役員報酬カットは近年例がないという。異例の事態は他局にも飛び火した。テレビ東京は最大15%、TBSも1年間にわたり最大15%の、それぞれ役員報酬カットを断行することを決めたのである。

テレビ局経営において現在、特に深刻なのは番組と番組との間に放送されるスポットCM収入の落ち込み。大手キー局(フジテレビジョン、日本テレビ放送網、TBS、テレ朝)では放送収入のうち4割超を占める大黒柱が不振に陥っているのだ。

昨年10月から低迷が始まり、新年度に入って状況はさらに悪化した。特に5月の東京地区のスポット出稿額は前年同期比80%台前半で、「過去10年で最低レベル」(君和田テレビ朝日社長)にまで減少している。6月も前年同期比90%前後と低水準だ。

各局とも「ここまでの低迷は想定していなかった」と口をそろえる。7月下旬から8月上旬に発表予定のキー局各社の4~6月期決算が厳しくなるのは間違いない。

北京五輪特需も不発か

テレビ広告が落ち込んでいる最大の理由は景気の減速だ。原材料高や個人消費の低迷などで足元の企業業績には急速に陰りが生じており、利益確保を優先するため、広告主はこぞって出稿量を抑えていると見られる。

加えて、構造的な問題を指摘する声も多い。その代表例が、毎年右肩上がりの成長を続けるインターネット広告の台頭だ。大手家電メーカーの幹部は「広告の予算枠は前年と変わっていないが、動画をはじめとしたネット広告への配分が増えているのは事実」と話す。つまり、テレビの広告媒体としての魅力が低下しているというわけだ。

テレビ広告回復の起爆剤がないわけではない。期待がかかるのが8月に開催される北京オリンピック。もともと、テレビ局や広告代理店は「4~6月は悪くても、北京五輪をきっかけに、飲料、家電メーカーなどからの広告出稿量が増える。その余勢を駆って、下期は回復に向かうだろう」との見立てだった。

だが、オリンピック需要が出てきていいはずの7月も「発注のペースが遅い」(フジテレビの小林豊取締役)。「8月、9月も不透明な状況」(同)だ。実際、大手広告主のある飲料メーカーは「原料高などで業績が苦しい状況が変わらない以上、下期も広告出稿は増やせない」と吐露する。このメーカーは今期の広告予算を約1割削減したという。肝心の国内景気の先行きにも不透明感が強まっており、期待したシナリオはすでに崩れ始めているといっていい。

となれば、各局とも放送外収入の拡大を急がざるをえない。確かに映画は好調だ。興行収入が10億円を超えればヒット作といわれる国内映画業界において、テレビ局が制作した作品は成功が続く。

5月1日に公開したテレ朝の『相棒』は、興行収入40億円を突破。三谷幸喜監督作品として注目を集めるフジテレビの『ザ・マジックアワー』も30億円を超えた。さらに、6月28日に封切られたTBSの『花より男子ファイナル』も公開からわずか2日間で10億円を記録している。

ただ、映画の収益だけでCM減少を補うことは難しい。本業不振を穴埋めできそうなのは「赤坂サカス」の不動産収入で稼ぐTBSぐらい。最大手のフジテレビが、なかなか手の付けにくい番組制作費の大幅削減に踏み切るほど事態は切迫している。放送免許という参入障壁に守られてきたテレビ局だが、もはや安泰とはいえない。

(中島順一郎 =週刊東洋経済)

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