「共謀罪」の拙速な新設は、将来に禍根を残す

刑法の原則「謙抑主義」を失ってはならない

「重大な犯罪」とは「死刑または長期4年以上あるいは無期の懲役・禁固」を指す。当初の政府案では「重大な犯罪」のうち、「死刑、無期、長期10年を超える懲役もしくは禁固が定められている罪」については「5年以下の懲役・禁固」を科し、「長期4年以上10年以下の懲役・禁固が定められている罪」については「2年以下の懲役・禁固」に科していた。ちなみに対象犯罪数は619に上り、「犯罪の実行に必要な準備その他の行為(オーバートアクト)」は不問とされた。

これに対して自民党と民主党(当時)はオーバートアクトの導入などを内容とする改正案を作成。いずれも適用される団体を限定するとともに、対象犯罪数について民主党が306まで減らす一方で、自民党は2007年2月6日の「条約刑法検討に関する小委員会」で「共謀罪」を「テロ等謀議罪」に名称変更し、対象犯罪数も123~155程度と大きく絞り込んだ。

その後、民主党は対処方針の見直しを発表し、2007年の参院選のマニフェストでは共謀罪に反対する態度を明確にしている。

そして共謀罪は2006年の第165回臨時国会以降、法案審議は行われず、2009年の第171回通常国会で衆院が解散されたため、審議未了で廃案になった。つまり、「国際組織犯罪防止条約」を2003年5月に国会で承認したものの、それに対応する国内法は整っていない状態とされている。

「テロ対策はいまや国際的な大きな課題」

それから8年。再び共謀罪の新設に向けて動き出した。その理由は、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに備えたテロ対策のためだとされる。確かに近年、テロについての危機感が高まっている。2015年にシリアでテロリストに邦人が殺害され、チュニジアで邦人が武装した集団による襲撃に巻き込まれた事件などを見ると、日本もテロと無関係とはいえない。

そうした観点から自民党は共謀罪に積極的で、二階俊博幹事長は1月10日の会見で「提案する以上は、できれば今国会でということに当然なる」と述べ、17日には「テロ対策というのはいまや国際的な大きな課題であるから、日本だけがそのらち外にいるわけにはいかない。積極的にこれに参加する。その意味において法律を提出する等、いろいろ準備をしていかないといけないのではないかということを常識的に考えている」と必要性を強調した。菅義偉官房長官も16日の会見で、「テロなどの準備行為があって初めて罰する法案であり、従来の共謀罪とは全然違う」と述べるとともに、「テロを未然に防止するためには、万全の対策を講じなければならない」と語っている。

一方で日本共産党の志位和夫委員長は、1月20日の会見で「現代の治安維持法だ」と強く批判。民進党の野田佳彦幹事長も22日のテレビ番組で「(適用対象の)『組織的犯罪集団』がどういう集団かを決めるのは当局だ。乱用の可能性があることが心配」と懸念を示した。また日弁連も昨年8月31日に「経済的な組織犯罪を対象とするものであり、テロ対策とは本来無関係」との会長声明を出している。しかしながら、組織犯罪とテロはその行為において重なる部分もあり、両者を完全に分離することはできないといえるだろう。

だが新しい政府案のように共謀罪を新設すべきなのかというと、基本的人権の保護という観点から疑問が残る。違反者には刑罰という重大なペナルティを科するので、その内容は過大であってはならず、多用されてはならないからだ。いわゆる「謙抑(けんよく)主義」である。新設の共謀罪の対象は、できるだけ絞り込み、明確にしたほうがよい。謙抑主義を守るべきである。

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