【洞爺湖サミットに何を期待するか】(第2回)絡み合う緊急課題(後編)

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【洞爺湖サミットに何を期待するか】(第2回)絡み合う緊急課題(後編)

国連大学高等研究所客員教授 功刀達朗

第1回より続き)

●G8運営の方向性

 G8の主要課題はいずれも国境を超える地球社会の共通問題であり、国家単位で対処できるものではない。G8その他の主要国にとって、グローバル公共政策に影響力を増した企業、市民社会、国際機関との連携が必須なのである。しかも国家とこれらすべてのアクターによる将来世代への責務と社会的責任分担は、それぞれの役割の単純総和を超えて、シナジーによる相乗効果を生み出すことが必要とされている。

 世界が新しい複合的危機に直面している今日、G8議長国日本に期待したいことは二つある。
 第一に、主要国家中心のタテ構造のガバナンスと、すべてのアクターの参加・貢献によるヨコひろがりのネットワーク型ガバナンスの複合的シナジーを創出する方向にG8サミットを主導すること。
 第二に、危機の背景にある世界各地の紛争と軍備拡張問題に対し、「平和への結集」の糸口をつかむことである。
 第一については、アフリカ開発会議(TICAD)で国際機関を軸足とした直接投資促進のための官民シナジーへの道が既に示された。第二は平和主義国家日本が今回イニシャチブをとるのに最もふさわしいG8発展策ともなりうるのではないか。

 5月末のTICADは日本にとってG8サミットの助走となった面があり、「ポストODA大国」ではあるが「世界第2の経済大国」「技術大国」としての矜持を世界に印象付けたこと、そしてアフリカ諸国による開発のオーナーシップと自助努力の実践を奨揚したことは評価される。

具体的支援策としては、
(1)対アフリカODA倍増と技術移転を伴う日系企業の直接投資を中心に投資倍増を目指す25億ドルの金融支援、債務保証、貿易保険などの官民協働
(2)インフラや民間投資促進、教育、保健を対象とする25億ドルの円借款と世銀の協調融資
(3)途上国支援のために創設した総額100億ドルの資金メカニズム「クールアース・パートナーシップ」
などを公表し、前向きな姿勢を示した。

一方、温暖化問題について6月9日に発表した福田首相の包括提案「低炭素社会・日本」は、国内外に波紋を投じた。日本の電力、鉄鋼業界は国内排出量取引に反発し、EU諸国からは昨年のハイリゲンダム・サミットでほぼ合意した線から一歩踏み込むには不十分であるとの声が上がった。ことにEUが中期目標を1990年を基準年として20%削減としているのに対し、日本が2005年を基準に14%削減とするのに反発し、アメリカ、中国、インドなどの他の大量排出国の温暖化対策への非協力の姿勢を助長するものと批判している。中期目標を設定し、世界全体でその目標に向けてR&D、新技術、新製品開発を行うことの重要性が叫ばれているときに、議長国が先んじて消極的態度を示したことは確かに問題である。

 ところで、昨年G8サミットでほぼ合意された「世界全体で2050年までに温暖化ガス排出量の半減」を達成するために必要な追加投資の試算は、福田構想発表の数日前にIEA(国際エネルギー機関)が公表していたが、これは2050年までに総額45兆ドル(4700兆円)であり、実質成長年3%を想定した世界の国内総生産(GDP)の1%に相当する。既に2006年秋にニコラス・スターンが英政府の依頼で作成した報告書『気候変動の経済学』は、温室効果ガス排出が現在のまま続けば、世界の総生産の5~20%を毎年減少させることになるが、総生産の1%のコストでこれを避けることは可能と予測していたことが想起される。いずれにせよ、国際社会はこのような重い負担をいかにして継続していけるのだろうか。

 この問いに対する一つの回答たりうるものとして注目したいのは、次に論ずる福田首相の「平和協力国家・日本」構想である。年頭の施政方針演説とダボスの世界経済フォーラムで公表したこの構想の発展次第では、第一に冷戦後17年余経た今日、再び世界が軍備拡張へ明らかに向かいつつある傾向に歯止めをかけ、軍備と戦争に費やされている貴重な資源を、環境と開発、人類の福利に振り向けることができる。そして、第二に平和主義を標榜する日本が世界の平和勢力と連携して、人類のより良き未来を拓く契機とする可能性を秘めていると私は考える。
第3回に続く、全6回)

功刀達朗(くぬぎ・たつろう)
国連大学高等研究所客員教授
国際協力研究会代表
東京大学中退、米国コーネル大学で修士、コロンビア大学で博士号。国連法務部、中東PKO上級法律顧問を経て、外務省ジュネーブ代表部公使、フランクフルト総領事、国連事務次長補、カンボジア人道援助担当事務総長特別代表、国連人口基金事務次長を歴任。90年国際基督教大教授、のち同大COE客員教授。編著に『国際協力』(95)、Codes of Conduct for Partnership in Governance (99)、『国際NGOが世界を変える』(06)、『国連と地球市民社会の新しい地平』(06)、『社会的責任の時代』(08)など。
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