突然の減損リスク、東芝「上場廃止」に現実味 ゼロ円で買収した会社が巨額減損の元凶に

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S&W社はプロジェクトの建設工事を一定の金額で請け負っている。単純化すると、コストが下回れば利益となり、逆にコストが膨れあがると損失となる(実際の契約ではさまざまな条件が付与されている)。物量や作業員の効率の問題から建設工事のコストがこれまでの想定よりも数千億円増加し、結果、S&W社の自己資本のマイナス額が膨れあがる可能性が出てきた。

米国ペンシルバニア州にある原発子会社ウェスチングハウスの本社(撮影:富田頌子)

実際に東芝が被る損失はいくらになるのか。数千億円といっても、2千億円なのか5千億円なのかで大きく違う。綱川社長ら東芝経営陣は「精査中」とレンジを明らかにしなかった。

直近の会社の今期の最終利益予想は1450億円。半導体メモリ事業は為替も含めて上振れており、資産売却なども進めているため、そこより上に行ってもおかしくなかった。だが、減損が数千億円規模で発生するなら、最終赤字の可能性も出てくる。2016年9月期の東芝の株主資本は3632億円しかない。最終赤字額や為替水準次第では債務超過に陥る懸念すらある。

内部管理体制に不信感

内部管理体制に対する不信感が膨らんだことも痛手だ。

東芝は昨年9月、特設注意市場銘柄に指定された。これは一連の不正会計を受けて、上場企業として内部管理体制に深刻な問題を抱えている、とする東京証券取引所からのイエローカードで、指定から1年6カ月以内に改善がなされなければ上場廃止の可能性がある。

指定から1年経った今年の9月、内部管理体制確認書を東証に提出し審査を受けてきた。だが、この間に子会社で売り上げの過大計上が発覚したこともあり、12月19日にさらなる取り組みが必要として指定解除が見送られたばかりだった。

今回の減損リスクの公表が東証にどう評価されるかはまだわからない。それでも100億円としていたリスクがいきなり数千億円に膨らんだことは、東芝の内部管理体制への不信を一層増大させたといっていいだろう。

買収時のリスクの見積もりや子会社の監視体制の甘さも露わになった。WECから綱川社長に報告があったのは12月中旬になってから。「WECがチェックした時期が遅かった」と綱川社長は唇をかんだ。

WECを管理する困難さ、そして内部管理体制の欠如。名門・東芝が抱える病巣は想像以上に深いのかもしれない。
 

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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