「固定残業代含む求人」がはらむ4つの問題点 効率的で働きやすい職場環境には逆行する

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固定残業代を賃金体系に組み込むことは、労働基準法の原則残業禁止の考え方とは相入れない。特に長時間分の固定残業代を支給するケースにおいては、過重労働の防止やワークライフバランスの実現を掲げる国の労働政策の方向性とも一致していない。

逆に、固定残業代を含む給与体系を構築してしまうと、労使ともに「○時間までは残業しても大丈夫」という発想になりがちで、残業を減らすというモチベーションが働きにくくなってしまうことを経験則上、私は感じている。

より深刻な問題として、私は60時間とか80時間といった長時間の固定残業代を含んだ雇用契約書を見たことがある。月80時間の残業は「過労死ライン」といわれる。つまり、これは、企業側が「過労死レベルで働いてください」と言ってしまっているようなものである。

この点、裁判所も長時間の固定残業代の支給には否定的な立場だ。過去に裁判となった事例では、北海道のあるホテルが、料理人やパティシエと勤務していた従業員に対し、月95時間分の固定残業代支払い、実態としても、ほぼ毎月90時間以上の残業が常態化していた。

これに対し、札幌高等裁判所は、「労働者の生活と仕事を調和させようとする労基法36条の規定を無意味なものとするばかりでなく、安全配慮義務に違反し、公序良俗に反するおそれさえある」として、厚生労働省が定める「過労死ライン」に沿い、月45時間までの固定残業代としてしか法的には有効でないという判断を示している。

同様に、神奈川県でガソリンスタンドの運営、自動車賃貸業などを行っている会社が、営業手当を月100時間分の固定残業代として支給していた事案に対しても、東京高等裁判所は、「法令の趣旨に反する恒常的な長時間労働を是認する趣旨」として、その他の事情も勘案し、営業手当の全額について固定残業代であることを否定した。

給与計算を正しく行うのは至難の業

第2の問題点は、給与計算が複雑になってしまうことだ。

「給与計算をスムーズにするため固定残業代を導入している」「何時間残業させても良い」という企業の話を聞くことがあるが、実態は違う。固定残業代でカバーされている残業時間数を上回ったら、差額を支給しなければ違法である。

そうすると、法的に正しく給与計算するためには、結局のところ固定残業代を超えていないかどうかを確認するため、実労働時間を集計して、残業代の計算をしなければならない。給与計算が楽になることはない。

それどころか、逆に、固定残業代があると、手当や歩合給が変わっただけで固定残業代に含まれる残業時間数は変わるし、欠勤控除や遅刻控除で固定残業代も日割り計算するとなると、何時間分のみなし残業代が削られたのかの特定も必要になるなど、社会保険労務士であっても大汗をかいてしまう給与計算になりがちだ。

次ページ正しく固定残業代の計算ができていた会社は半分以下
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