「完全養殖クロマグロ」増加で何が変わるのか 近畿大学の成功に続き、水産会社も本格出荷

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近畿大学は豊田通商と2014年に事業提携を行い、現在はクロマグロの稚魚の生産から出荷、販売までを行っている。2014年時点で80トン、2000尾の生産量を2020年度には240トン、6000尾まで3倍に増やす目標を立ててており、2015年には長崎県に稚魚センターを設立した。

現在、人工種苗以外の養殖場の新設は許されておらず、各社ともに人工種苗・完全養殖による生産量を増やさざるを得ない。そのような中、マルハニチロは2015年に民間企業として初めて完全養殖のクロマグロを出荷。2018年度に人工養殖・天然養殖との合計4400トンの出荷目標に向けて、安定生産のための技術・体制固めに入っている。

日本水産は新日鐵住金エンジニアリングと共同で、鳥取県境港市の沖合での大規模養殖システムの実証試験を行っている。これはマグロに限ったものではないが、海上での大規模飼料の貯蔵と全天候型の給餌と管理を可能にしようというものだ。

完全養殖が進めば価格も安定的に

水産資源の獲得は時にして国際問題にも発展しうる重要な問題だ。「他業種からの参入もあり、養殖事業は高度化していく」(日本水産・細見典男社長)。安定供給のための養殖事業への関心は今後も高まるだろう。

水産各社の中には、養殖事業は各社ともまだそれほど大きい比重を占めていないところがある。日本水産はサケマスなど南米での養殖事業の収益改善が業績の向上につながっているところがあるが、市況動向や為替の変動に収益が左右されやすい構造は変わっていない。

ただ、完全養殖が進み、消費者にとって人気の魚類が安定的に供給できれば、価格の安定にもつながる。水産各社とも、マグロだけでなくサケやブリなどを含めて魚類のブランド化も進めており、今後は安定供給と知名度向上にも本腰を入れている。また、冷凍・常温食品など水産物を使用した加工食品の売り上げが好調なマルハニチロなどは、将来的には完全養殖の魚を加工食品に利用するといったシナジーが十分に考えられるだろう。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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