「北方領土と沖縄」が日米関係に与える変化 佐藤優が予想するトランプ大統領のスタンス

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第1の北方領土交渉について、12月15日に山口県長門市で安倍晋三首相は、ロシアのプーチン大統領との首脳会談を予定しています。この会談では、歯舞群島と色丹島のロシアから日本への引き渡しを定めた日ソ共同宣言(1956年)を基本に北方領土問題が動くのではないかと見られています。そうなると日米間で深刻な問題が生じます。

歯舞群島と色丹島が返還され日本の施政が及ぶようになれば日米安保条約第5条の適用範囲になり、この両島に米軍が展開することが可能になります。そのような事態が想定されるならば、プーチン大統領が歯舞群島と色丹島の引き渡しに応じることはありません。それだから、安倍首相としては、返還後の歯舞群島と色丹島の「非軍事化」を宣言し、米国が両島に展開しないという枠組みを作ることに迫られています。

ロシアに対する厳しい姿勢を取るクリントン氏が大統領に当選したならば、日露関係の改善に水を差してきたと思います。具体的には、「安倍政権がロシアのプーチン政権に譲歩して歯舞群島と色丹島への米軍の展開を認めないならば、米国は尖閣諸島の共同防衛を約束しない」というような牽制球を投げてくる可能性がありました。

これに対して「米国は世界の警察官になるべきでない」と主張するトランプ氏ならば、「棲み分け」的な価値観に基づいて、返還後の歯舞群島と色丹島に米軍が展開しないという安倍政権の立場を容認すると思います。

沖縄県の翁長知事はトランプ当選を歓迎

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第2にトランプ大統領の下で沖縄の米海兵隊問題についても、地元の沖縄県民の大多数と民主的手続きによって選出された翁長雄志知事が、普天間飛行場の閉鎖と辺野古新基地建設に反対しているという現実を重く見て、これらの基地を保持することにトランプ政権が固執しなくなる可能性があります。

普天間飛行場が閉鎖され、沖縄県内にその代替施設ができないとなると、機動的な移動手段を持たない海兵隊が沖縄に駐留する合理性がなくなります。その結果、海兵隊は沖縄県外に出て行かざるをえなくなります。そうなると海兵隊が使用する高江のヘリパッドも必要なくなります。現在、日本の中央政府と沖縄の間に存在する深刻な懸案がトランプ大統領の出現によって大きく変化する可能性があります。翁長知事もトランプ当選を歓迎しています。

<トランプ氏が米大統領選で勝利したことを受け、翁長雄志知事は9日、記者団に、来年2月ごろに訪米する意向を示した。トランプ氏周辺に接触し、辺野古新基地建設問題に関する県の考えを直接説明したいと述べた。
翁長知事は「沖縄の基地問題がどういうふうにいくかわからないが、いわゆる膠着状態の政治はしないのではないか。どのような対応を取るか、期待しつつ注視していきたい」と述べ、日本政府と膠着状態に陥っている辺野古問題の解決に期待感を示した。トランプ氏宛ての祝電で、面会を申し入れることも明らかにした。訪米は、トランプ氏が2017年1月20日に大統領に就任し、関係閣僚が決まる2月ごろとしている。>(2016年11月10日「琉球新報」)

トランプ氏の種々の暴言から、この政治家に危険があることは、翁長知事もよく理解しています。そのうえで、「世界の警察官になるべきでない」というトランプの姿勢を沖縄は最大限に利用すべきというプラグマティツクな姿勢を取っているのです。

佐藤 優 作家・元外務省主任分析官

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さとう まさる / Masaru Sato

1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。

2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。2006年に『自壊する帝国』(新潮社)で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『読書の技法』(東洋経済新報社)、『獄中記』(岩波現代文庫)、『人に強くなる極意』(青春新書インテリジェンス)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『宗教改革の物語』(角川書店)など多数の著書がある。

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