米国でバカ売れしている「日本叩き本」の正体 トンデモ本が3カ月で50万部も売れた!
同書はノンフィクションに分類されており、オライリー氏自身も初めに「この本に書かれていることはありのままの事実」と書いているが、これをノンフィクションとして扱うのは違和感がある。同書の中には、多数の歴史的認識の誤りや、歪曲表現が散見される。前述のラジオ番組でも、旧日本軍が第2次世界大戦中に2000万人もの中国人を殺害したという記述の情報源を聞かれ、「1930年代に行われた残虐行為については、米国の新聞もレポートしており、記録として残っている。ただ、米国人の記者がたくさんいた欧州と違って、太平洋諸国にはほとんど記者がいなかったうえ、マッカーサーによる言論統制が厳しくほとんど事実が伝えられていない」と答えている。
さらに、オライリー氏は最終的に米国が原爆投下を決めた背景には、日本古来の「武士道」を重んじる文化が大きく関係していると指摘。日本を降伏させるには核兵器の使用以外に手段はなく、日本侵攻を未然に防ぐことによって多くの命を救うことができたと結論づけている。前述のラジオ番組では、「日本人は極端に熱狂的で狂信的であり、武士道にのっとって天皇のために死ぬような人たちだった。小さな子どもも、女性も含めてみんなそう生きていた」と語っている。つまり、「そういう国民と戦うのは、ドイツ人と戦うのとは話が違う」というわけだ。
もちろん、「原爆投下は正しかった」とする結論はオライリー氏らの主観であり、間違いだとは言えない(実際、2015年の米ピュー・リサーチ・センターの調査では、半数以上の米国人が「正しかった」と答えている)。しかし、たとえばオライリー氏は過去の対談で、日本軍の731部隊などの存在については詳しくないと明かしており、この結論を導き出すまでの歴史的事実にどこまで詳しかったのか疑いが持たれる。
ちなみに、オライリー氏はこの本を書くにあたって、オバマ大統領を含む5人の大統領経験者に、当時の大統領ハリー・トルーマン氏による原爆投下の決断が正しかったかどうか聞いている。これに対して、ジミー・カーター氏とブッシュ親子からは「正しかった」とする手紙が届き、それがそのまま掲載されている(ビル・クリントン氏、オバマ大統領からは返事が来なかった)。
この本の目的はいったい何なのか
この極端な見解が詰まった歴史書を上梓した背景には、今年5月のオバマ大統領による歴史的な広島訪問がある。オライリー氏らの訴えは非常に明確で、ひとつは、原爆投下について謝罪すべきではないということ、もうひとつは、オバマ大統領が考えている「核先制不使用」という新たな政策は断固として拒絶されるべきだということだ。
実はこの本がバカ売れしているのは、それほど不思議ではない。そもそも、オライリー氏は米国人なら誰でも知っている政治コメンテーターで、20年間続いている自らの名前を冠した報道番組「ザ・オライリー・ファクター」は、保守系テレビ局フォックス・ニュースの中で高い視聴率をたたきだしている。同氏による「Killing」シリーズは『Killing the Rising Sun』で6作目で、これまでの作品同様、「この番組を使って本を売り込んでいるのも事実」と、フォックス・ニュースで以前上司だったロジャー・エイルズ氏は言う。
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