トヨタの車づくりは「カムリ」から激変する 設計改革「TNGA」がいよいよ本格始動

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新型パワートレーンは部品の大幅な共通化でコストを削減する。これはTNGAの大きな狙いだ。従来は車種ごとに仕様が大きく異なっており、エンジンの種類が膨らんでいた。今回異なる種類の間でも構造や要素技術を統一化し、気筒の容積と数を自在に組み合わせられるようにした。

こうした整理統合で、エンジンの種類を従来比で約4割削減する方針だ。加工や組み付けの基準、工程や設備の仕様も統一することで、開発効率とともに生産効率も向上させたという。

ほかのトヨタ車にも速いスピードで展開しやすくなり、今後5年で、エンジンは今回開発した2.5リットルエンジンを含めて、9機種17バリエーションの投入を予定している。

率いたのは異例の部品メーカー出身役員

トヨタの水島寿之専務役員がパワートレイン開発を率いる(記者撮影)

開発を担ったのは、2016年4月に製品群や技術分野ごとに作った7つの社内カンパニーのひとつ、「パワートレーンカンパニー」。これを率いるカンパニープレジデントの水島寿之専務役員は、新卒でアイシン精機に入社し、生産技術畑を中心に歩み、副社長まで務めた人物だ。

これまではトヨタがグループ各社に役員や幹部を送り込んでいたが、水島氏は昨年にトヨタから招聘されて、アイシンから転じた。グループ各社からのトヨタ本体の役員への抜擢は異例だ。

水島氏は部品メーカーとの連携を強調する。「従来はまずトヨタが先行開発していたが、これからは初期段階から部品メーカーも一緒に開発に取り組む」。

また水島氏は、「部品メーカーは多くの完成車メーカーと付き合いがあり、さまざまなニーズに対応する。実はTNGA製品もトヨタ車だけでなく、いろいろな車に搭載することも想定している。必要とする顧客がいればトヨタ以外にも供給したい」とアイシン精機で培った知見をどう生かしているかについても触れた。

TNGAは部品メーカーにとってチャンスでもありリスクでもある。ある部品メーカー幹部は「一度受注すると幅広い車種に採用されるため、これまでと桁が違う数量が期待できる。だがいったん失注すると、大きな損失になる」と話す。

また、トヨタにとっても、開発スピードが上がり、コストが低減できるメリットがある一方、仮に不具合などが起これば、同一車種だけでなく、幅広い車種までリコール対象になる可能性があり、もろ刃の剣でもある。

まずは来年発売の新型カムリが世界の市場にどう受け止められるかが、今後のTNGAの試金石となりそうだ。トヨタの新戦略は吉と出るか。

冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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