「タワマン節税」の規制で税金はどうなるのか 意外や、富裕層にそれほどの打撃はない?

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【現状のタワマン節税のイメージ】

高層階に居住する人と低層階に居住する人の固定資産税負担が同じことで、税の公平性を阻害するという声が無視できなくなった。これがタワーマンション節税に対する規制が起こった背景と言えよう。

この点、総務省が検討している新しい評価額の仕組みは、タワーマンションの中間の階は現行制度と同じ評価額にする一方、中間階よりも高層の階では段階的に評価額を引き上げ、低層の階では段階的に引き下げるというものだ。

しかし、この改正案のままでは、タワーマンション節税を大きく規制することにならない。なぜなら、そもそもタワーマンション節税の要点は、前述の通り、時価と相続税評価額の乖離にあり、建物全体の固定資産税評価額を変えずに従来通りの相続税評価の方法を踏襲した場合、改正による影響は軽微にとどまるからだ。

節税だけでなく、資産価値にこそ目配りを

たとえば改正によって、40階建てタワーマンションの最上階の固定資産税評価額が3000万円、20階部分が2500万円、10階部分が2000万円になるとする。が、そもそもの時価が1億円であれば、資産家にとって多少の固定資産税評価額の調整は大きな問題にならないと予想され、今後も節税の効果は依然として継続する可能性が高い。それよりもタワーマンションの高層階は値崩れのリスクがあるため、相続税の節税面だけに気を取られるのでなく、資産価値の面に着目して対策を実行していくことが必要だろう。相続税を1000万円節税できたのはいいが、資産価値が2000万円下落したということであれば、元も子もないからだ。

また、行き過ぎたタワーマンション節税はすでに過去に納税者が敗訴しているケースもあるので、注意が必要である。実際に納税者敗訴の事案を要約すると、「亡くなる1カ月前にタワーマンションの1部屋を購入し、低い相続税評価額で相続税申告を行った後、翌年にほぼ購入額と同額で(高く)売却した」という内容。これには、国税もさすがに相続税節税のための行き過ぎた行為だということで、裁判では納税者が敗訴した。

相続税の節税対策は、国税と納税者のいたちごっこの繰り返しである。納税者としては、節税対策は封じられる可能性があることを念頭に置いた上で、節税面だけでなく、資産価値としての側面にも注意して、相続税の節税対策を進めるべきであろう。
 

荒巻 善宏 税理士法人チェスター代表 公認会計士・税理士

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あらまき・よしひろ / Yoshihiro Aramaki

2004年同志社大学商学部卒業。08年に資産税・相続税専門の税理士法人チェスター設立。職員282人、全国12拠点展開。年間2200件超の申告実績はトップクラスを誇る。

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