グローバル時代だからこそユニークなポジションを−−ハーバード大学教授 マイケル・ポーター
◆グローバル化は各地の市場に合わせること
--グローバリゼーションは単一化ではないと。
グローバリゼーションは日本発で同じ商品をさまざまな市場に輸出するという意味とは限りません。むしろグローバリゼーションはユニークなポジションを見つけて、それを世界各地の市場に合致するために調整することだと思います。トヨタ自動車はこのよいケースだと思います。単一商品を世界中で売るのではなく、コアになる商品は同じでも、実際の細かいところはそれぞれの市場に合わせ適切に手直しされている。つまり日本企業はグローバリゼーションに対して洗練された手法で対応できるようになってきたのです。
かつてグローバリゼーションが意味したことは、デザインをすべて日本でやり、すべて日本国内で作り輸出する、あるいは外国で最終的な組み立てをするということでした。いわば日本第一主義です。ところが海外で成功している日本企業は多極化モデルを採用し、競争している市場とより緊密に関係するようになっています。
--グローバリゼーションでは、金融市場と企業との関係も古くて新しい問題です。米国流の金融資本主義が企業戦略にも大きな影響を与えています。
私が今、最も時間を割き、最も興味を持っているのが、企業と金融市場、株式市場との関係です。
米国でも20~30年前は、投資家は企業の株を10年単位で保有していた。ところが現在は米国の株主は半年で株を手放すので、つねに株主が変わっている。株主は半年か1年後には業績が改善することを求めている。これでは基本的なミスマッチが起きてしまう。なぜなら企業のゴールと投資家のゴールが異なっているからです。
◆優良企業は戦略を支持してくれる投資家を持つ
企業は株主に価値を還元することが最終的な目的ではないと認識する必要があります。企業の最終目的は業績を上げることです。長期的に見ればこれが株価を上げることにつながる。大きな間違いは、現在の株主が求めることを満たそうとするあまり、本来求められる企業業績を上げることに集中できないことです。
優良企業は既存の投資家を受け入れるだけではなく、自ら自社が掲げる戦略を支持してくれるような新しい投資家を見つけている。企業がいかに金融市場とかかわっていくか、活発な投資家やプライベートエクイティにどう対応するか。これは米国だけでなく日本にも共通する課題になっています。
--とはいえ、日本ではこれまであまりに株主の存在が軽かったという側面があります。日本企業の資産効率は著しく低いのが現状です。
日本では資本をいかに有効に使うかが課題です。多くの企業では巨額な資本が休眠状態にあって使われていない。眠らせておいて使っていないという現状がある。自社の業務に効果的に投資しないならば、配当するなり、自社株買いなどを検討すべきです。日本企業の管理職は業務の遂行は得意だが、資本家の立場では考えていないようです。
企業はまず業績を上げなければならない。たとえ株主が短期的利益を求めたとしても経営陣が長期的な業績にマイナスだと判断すれば、それは受け入れてはいけない。ステークホルダー(企業にかかわるあらゆる利害関係者)とシェアホルダー(株主)の違いについての議論があるが、両者を対立的にとらえるべきではない。それは間違った区分です。
株主はステークホルダーの企業へのコミットなしには利益を得られない。企業がよい業績を上げなければ、ステークホルダーも将来、残っていけない。この2者は手に手を携えるべき存在なのです。
(長谷川 隆 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済)
マイケル・ポーター
ハーバード大学教授。1947年生まれ。プリンストン大工学部卒、ハーバード大経済学博士。競争戦略と国際競争力研究の第一人者。主な著書に『競争の戦略』『競争優位の戦略』『日本の競争戦略』など。
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