「QC」に残業代 トヨタの転換で揺らぐ労使蜜月

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「QC」に残業代 トヨタの転換で揺らぐ労使蜜月

QC(クオリティ・コントロール=品質管理)活動と言えば、トヨタ自動車のお家芸。工場を中心に、従業員が自主的に生産性向上に取り組む活動だ。長きにわたり、日本のモノづくりにおける強さの源泉とされてきた。

トヨタは6月から、勤務時間外に行うこのQC活動を、初めて“業務”と認定する。残業代で月2時間という上限を撤廃し、全額支給すると決定したのだ。

「1円・1秒・1歩・1滴・1グラムのムダをなくす」。あるトヨタグループの上場企業社長は、トヨタマンに根付く“カイゼン”(改善)の意識を、こう表現する。QCは、工具を置く位置から作業手順まで、多岐にわたる。1961年から始まり、今でも8人程度のサークルが国内だけで約5000あり、4万人以上が対象になるという。

しかし、これまでQCと業務との境界線は、極めてあいまいだった。生産ラインを止めた後、工場内の空いたスペースや会議室などで実施されるQCは、あくまでも参加が“自主的”。ただしその成果は、勤務評価の対象に反映されてきたのである。

もっとも最近のQCは、かつてと異なってきていた。「サークルの資料が、カラー化したりパワーポイントを使ったり、どんどん手が込んでいった」と、トヨタ労組の幹部は振り返る。時代とともに中身も変質し、「禁煙方法」など業務に関係ないテーマまで含まれていた。

他社への波及は必至

多くの社員がQCに関わっていたことは間違いない。今回、トヨタが方針を変えざるをえなかった背景には、2007年11月の名古屋地裁判決が影響している。元トヨタ社員の過労死をめぐる訴訟で、地裁はトヨタのQC活動を業務として、労災に認定。自宅にまで仕事を持ち帰った元社員の、月100時間を超える残業も明らかになった。

QCを残業と認めたことで、気になるのは人件費に与える影響だ。もっとも過労死の件は極端な例であり、「むやみに10時間も20時間も長くならない」と、ある幹部は冷静に構える。

現在の工場は、6時30分からと15時35分からの連続2直体制が中心で、昔の深夜~早朝勤務はなくなっている。1直と2直との間隔は狭まり、長時間残業したくてもしづらいのが現実だ。仮に月3時間分、残業枠を超えても年36時間。年総労働時間の約1900時間と比べ、大きな負担になるとは考えにくい。

むしろコスト面より大きいのは、今後ドライにならざるをえない、労使のあり方だ。

トヨタがQCを勧めてきたのは、上からの命令でなく、現場が知恵を絞って議論してこそ、改善が生まれると見ていたからだ。従業員も自発的に参加することで、やりがいを見いだしていた。だが、今度は過度な残業を避け、提案を控えようとする意識が芽生えれば、本来持っていた活力や積極性を失いかねない。

QC活動を普及してきた日本科学技術連盟は「トヨタと同じことが他社にも広がっていくのでは」と推測する。多くの企業では、上司の顔色をうかがって残業申請を控える例も見られる。QC活動の扱いが各社任せな側面も強い。すでにホンダでは「NH(ニューホンダ)」サークルの名で、月4時間、活動の発表月には8時間まで残業代を支給。新日本製鉄は残業代でなく「助成金として1時間1400円を払い、上限はない」(関係者)という。

QCの自主性という“グレーゾーン”が取り払われたことで、今後はいかに現場の創造力や一体感を引き上げるかが課題となってくる。トヨタの大胆な方針転換は、日本の労使関係を一変させる可能性をもはらんでいる。

大野 和幸 東洋経済 記者

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おおの かずゆき / Kazuyuki Ohno

ITや金融、自動車、エネルギーなどの業界を担当し、関連記事を執筆。相続や年金、介護など高齢化社会に関するテーマでも、広く編集を手掛ける。

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