「日本市場を揺るがす外国人投資家の行く末」リチャード・カッツ
政治への憂慮よりも経済情勢に敏感に反応
一部のアナリストは、「外国人投資家は福田首相の誕生や、日本市場の外国人投資家への拒絶反応といった状況に幻滅している」と指摘している。しかし私は、こうした見方は誇張であると感じている。
確かに日本で意欲的に活動している外国人投資家の一部は、スティール・パートナーズによるブルドックソース社買収の失敗や、増配を求める株主提案が総会で否決される現状などに失望している。私が出会ったウォール街の大手証券会社のポートフォリオ・マネジャーも、「日本市場で株を運用しているファンドからは撤退する」と話していた。しかし、スティール・パートナーズのような“物言う”ファンドはごく一部である。そうした投資路線の変更が、市場に及ぼす影響は小さいはずだ。
また多くの外国人投資家は、福田政権について、経済改革を推進する意欲が乏しく、地方区で民主党に対抗するため公共事業を復活させる政権であると憂慮している。しかし、そうした懸念が、彼らの意思決定に重要な影響を与えているとは思えない。むしろ外国人投資家は、直近の金融情勢や経済情勢に敏感に反応する傾向が強いからである。
投資家の意思決定に最も影響を与えるのは、海外市場の状況である。過去数年、日経平均はアメリカの株価指数S&P500と同様の動きを見せていた。だが昨今の日経平均はS&P500ほど上昇しなくなっており、実際に年初来S&P500は6%上昇しているが、日経平均は7%下落している。これでは日本株への魅力が薄れるのも無理はない。アメリカのあるポートフォリオ・マネジャーは、「私たちは東京だけを見ているのではない。他の市場も同時に見ている」と語っていた。
アメリカを襲った金融不安も、日本企業への投資に影響を与えている。日本企業を買収しようとするファンドが、従来のように買収に必要な資金を調達しにくくなっているのだ。アドバンテッジパートナーズによる三洋電機の半導体部門買収が延期されたのも、それが原因である。
また投資決定には為替相場の動向も欠かせない。いま日本の国内消費は精彩を欠き、最もパフォーマンスが高い日本株は、海外売上比率が高い企業の株式である。ただそうした企業にとって、円高は業績にマイナス要因として働いているのだ。
それでも世界市場が回復すれば、日本市場はそれ以上に回復するという見方もある。カクストン・アソシエイツの主席ストラテジストであるジョン・マキン氏は、「主要輸出国の先行きが不透明なため、日本株への投資はリスクがある」と認めたうえで、「日本市場のパフォーマンスの悪さは逆に魅力」とも語っていた。日本株のPER(株価収益率)は現在、最低水準で、安値買いの投資家にとっては魅力的なのである。
いま多くの投資家は先行きの見通しに自信を持てず、楽観と悲観の間で大きく揺れ動いている。外国人投資家の日本株に対する態度も、同様に不安定に陥っているのだろう。
(C)Project Syndicate
リチャード・カッツ
The Oriental Economist Report 編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。当コラムへのご意見は英語でrbkatz@orientaleconomist.comまで。
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