韓国、汚職防止狙いの「接待禁止法」で大混乱 2800円超の食事接待だけで3年以下の懲役も

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韓国のシンクタンク・韓国経済研究院は、金英蘭法の施行で年間11兆6000億ウォン(約1兆円)の経済的損失が生じると推定している。特に飲食業や贈答関連産業、ゴルフ場への影響が大きいと見積もっている。この予測は過大だ、という批判はあるものの、足下では高級飲食店の閉店や業種転換が相次いでいることも事実だ。

9月中旬の旧盆には、韓国では日本のお中元のような贈答品のやりとりが活発化する。ここでも影響が出ている。金英蘭法の施行前だったにもかかわらず、贈答用の牛肉の販売額が前年より20%減少した。旧盆前後の30日間、農協や大型量販店を対象にした調査では、「韓牛」と呼ばれる国産牛や人参、果物などの販売総額は939億2000万ウォン(約87億円)で、前年比で19.2%の減少となった。同法が定める贈答品の限度価格は5万ウォン(約4600円)。だが、国産牛を送ろうとすると、その限度額をやすやすと超えてしまう。

韓国の経済誌「中央日報エコノミスト」によれば、韓国企業も金英蘭法の施行でこれまでの慣行を変えざるを得ないと考えているようだ。実際に、広告費や接待費を抑制しようとする動きが目に見えて増え始めた。ある金融機関の広報関係者は「会社の業績もよくないうえに金英蘭法の施行で心理的プレッシャーも大きい」と打ち明ける。

2015年の接待費は総額で9200億円

ハナ金融経営研究所のペ・ヒョンギ所長は「2004年に接待費実名制が導入されたことがあるが、このときも接待費の金額規模が縮小している。金英蘭法は当時よりも適用範囲が広く、影響はさらに拡大するだろう」と指摘する。「何よりも、これまで当然のように行われてきた接待といった慣行が法律で規制されたこと自体が大きい。短期的な消費の停滞は避けられない」(ペ所長)。

一方で、「金英蘭法は長期的に韓国経済に肯定的な効果を与えるのではないか」との期待もある。これまでの接待費は不健全で使われ方をされ、その額も尋常ではなかった。韓国国税庁が国会に提出した資料によれば、2015年の接待費の総額は9兆9685億ウォン(約9200億円)。このうち、スナックやクラブなどの飲食店で使われた接待費は1兆1418億ウォン(約1100億円)だった。

こうした過剰な接待文化が解消されれば、長期的には韓国経済にプラスに働く可能性はある。国際透明性機構によれば、韓国の腐敗認識指数は100点満点で56点、168カ国中37位だった。また、経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国中27位と低レベルに留まっている。

腐敗指数が高ければ高いほど、経済に悪影響を与えることは自明の理。OECDによれば、腐敗が蔓延している国はそうでない国よりも海外直接投資の誘致確率が15%高いという結果も出ている。非生産的な接待費が、より生産性の高い通常の企業投資に回れば、経済活性化にも寄与することになろう。劇薬を飲んだ韓国は長い歴史の中でしみ付いた文化を変えることができるだろうか。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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