32歳高年収女子、「暴走デート」の全内幕 東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<3>

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玄関の全身鏡に自分の姿を映し、ニッコリと微笑んでみる。鏡に映る自分は、やはり身近な女たちの中で、誰よりも美しいと杏子は思う。ほっそりと引き締まった身体に、色白の肌と、艶やかな黒髪。顔は中谷美紀や木村佳乃に似ているとよく言われる。決して自惚れではないはずだ。

朝から運動をしたので、コンディションは何もかも最高だった。

女慣れしていない真面目男に抱いた好印象

『ランデブーラウンジ』に10分ほど前に到着すると、飯島はすでに席に座っていた。清潔感のある男で、顔立ちも体格も悪くない。シンプルな白いシャツを着たファッションも好印象だ。

「杏子さんですか? は、はじめまして!飯島と申します!」――。飯島は立ち上がり丁寧に頭を下げ、「一応……」と、緊張気味に名刺を差し出した。身なりや雰囲気を数十秒観察すれば、彼がそれなりにきちんとした男であるということは、杏子は何となく直感で分かる。伊達に長くセールス職に就いているわけではない。

「ここまで素晴らしい人に出会えるとは、思っていませんでした……」。杏子も同じように名刺を渡すと、飯島は心底感嘆しているようだった。外見もスペックも中々だが、女慣れしていない真面目そうな男だ。それゆえにきっと東京恋愛市場では埋もれてしまうのだろう。しかし、やはり悪くない。想像以上の優良物件に、杏子の心は少し踊った。

「よかったら、お食事か、甘いものでも是非頼んでください」。飯島はメニューを差し出したが、杏子はブラックコーヒーをオーダーした。せっかく朝からせっせと運動に励んだのに、中途半端な食事は摂りたくはない。飯島も同じ物を、と店員に告げた。

男の眼差しに満足する、エリート女

最初は仕事の話から入った。仕事の説明なら、杏子は勿論慣れている。営業モードでにこやかに語ると、飯島は神妙な表情で聞き入っていたが、相槌の声は若干上ずり、手元は小刻みに震えていた。

緊張しちゃって可哀想に。まぁ、仕方ないわね。結婚相談所に登録するような男は、そんなにレベルの高い女に出会うこともないだろうし…。賞賛と畏怖の混じり合った男の姿勢は、杏子の自尊心を大いに満足させる。

結婚相談所に登録してすぐに、多数の「会いたい」のオファーが届いたのだし、あの厳しい直人だって、杏子は美人で市場価値は高いと言っていた。プライベートが少々上手く行かないくらいで、落ち込む必要なんて全くなかったのだ。

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