観光大国フランスの“巧妙な集客術” 旅行者数は日本の10倍、なお拡大に“執着”

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(ユネスコ世界遺産でもある、アルビの司教都市)

マーケティング戦略を統一することで、効率的に国内外の観光客へフランスの魅力をアピールし誘客できる。設立早々に、「バラバラだったホテルの等級を、規模や設備に応じて公式に統一した(星の数で0~5、ミシュラン等の独自格付けとはまったく別のもの)」(アトゥー・フランス在日代表のフレデリック・メイエール氏)。こうした試みは世界でも珍しい。審査基準はネットでも公表し、観光客の抱くイメージと実態の齟齬がないように配慮しているという。

公的機関ながら利潤も追求するのは難しいようにも見える。が、各エリアやホテルがそれぞれの強みを客観的に把握し、個性をアピールしながら地域連携して観光客にアピールできるため、結果的にきわめて効率のよい誘客を実現できているようだ。「他国でも同様の組織を導入すべき」(メイエール氏)と自信を深めている。

観光で生まれた雇用は海外へ逃げない

(アトゥー・フランスのメイエール氏〈左〉とラクソニエール氏〈右〉)

ラクレソニエール氏は、「旅行業はフランスにとって大きなチャンス。なぜなら製造業と違って、観光関連で生まれた雇用は国外へ流出することがないからだ」と評価。ピネル大臣も、「観光業には大企業から中小企業に至るまで、5万件の雇用需要がある。若者の雇用促進とともに、職務の技能を上げ、ベテランから若者へノウハウを継承する仕組みを作る必要がある」と、雇用への取り組みを強調する。

西はスペイン、東はイタリア、スイス、ドイツなどと接するフランス。国内を分断する急峻な山脈は少なく、ドーバー海峡を挟んだイギリスに加え、大西洋、地中海からもアクセスできるため、古代から多様な民族が行き交う交通の結節点として発展してきた。「観光が国にもたらすものには、経済収入はもちろんのこと、他者への歩み寄りや分かち合いの精神もあり、フランスが世界的な名声を広めるのに大いに役立つ」(ピネル大臣)。

ひるがえって日本でも、「ビジット・ジャパン」の掛け声で外国人の訪日旅行促進を狙っているが、2012年の訪日客数は836万人と、計画の1000万人にはまだ届かず、フランスへの海外からの渡航客の約10分の1にとどまる。

四方を海に囲まれた日本と同じ土俵で、インバウンド(海外からの外国人の観光集客)の優劣を比較するのはフェアではないかもしれない。だが、観光開発と国外PRを一体化させた組織や、首都から地方都市までそれぞれの強みを生かした郷土プロモーションで多様な魅力を訴求する戦略など、観光大国フランスに日本が学べる点は多い。
 

山川 清弘 「会社四季報オンライン」編集部 編集委員

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やまかわ・きよひろ / Kiyohiro Yamakawa

1967年、東京都生まれ。91年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。東洋経済新報社に入社後、記者として放送、ゼネコン、銀行、コンビニ、旅行など担当。98~99年、英オックスフォード大学に留学(ロイター・フェロー)。『会社四季報プロ500』編集長、『会社四季報』副編集長、『週刊東洋経済プラス』編集長などを経て現職。日本証券アナリスト協会認定アナリスト、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト。著書に『世界のメディア王 マードックの謎』(今井澂氏との共著、東洋経済新報社)、『ホテル御三家 帝国ホテル、オークラ、ニューオータニ』(幻冬舎新書)など。

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