「九州新幹線」来春の徐行解除には何が必要か 熊本地震で得た脱線対策の教訓を生かすには

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九州新幹線800系。地震で脱線した編成には「逸脱防止ストッパ」が設置されていなかったため、全編成への設置を進める(写真:tesshy / PIXTA)

だが、厳しい目で見れば今回の脱線に伴う逸脱幅は建築限界に抵触しており、ギリギリではあるが、すれ違い時であれば対向車両との干渉の可能性があった。また、事故区間には「脱線防止ガード」が未設置であったし、また事故を起こした800系の編成には「逸脱防止ストッパ」が装着されていなかったという事実は、大きな教訓を残した。

そこで今回の対策としては、800系も含めた全編成に「逸脱防止ストッパ」の設置を進める一方で、脱線区間を含めて改めて危険箇所を見直し「脱線防止ガード」の設置を拡大することとなったのである。

ところで、JR九州として、仮に全線に「脱線防止ガード」の設置が難しいのであれば、それ以外の区間については、山陽方式の「逸脱防止ガード」の採用も視野に入れてはどうかというアイディアをぶつけてみた。この点に関しては、兵藤部長からは九州区間は「枠型スラブ」を採用しているので、その設置は難しい、あくまで必要箇所を特定して「脱線防止ガード」を設置するのが基本方針ということであった。

「N700S」は九州に登場するか

設備に関する対策としては以上ということになるが、車両に関してはブレーキを中心に改良が検討されているようだ。現在、九州新幹線の主力車種は「N700系」で、東海道山陽の16両固定編成ではなく、8両固定編成となっている。その一方で、東海道・山陽仕様が新造、改造を含めて全編成「N700A」になっているのと比べると、九州仕様は「オリジナルのN700」のままである。

兵藤部長によれば、九州仕様車両に関しては「定速走行装置」や「車体傾斜装置」のニーズはないが、「N700」から「N700A」への進化・改造にあたって採用された「中央締結型ブレーキディスク」には、JR九州としても関心を持っているという。熱対策の向上により地震発生時の緊急制動距離を10%前後短くするという性能アップが期待できるからだ。

その後、JR東海からは「N700A」の更に次世代車として「N700S」が発表されている。この「N700S」は、機器を小型軽量化し、自由な床下配置を実現することで16両編成だけではなく12両編成、8両編成などを柔軟に組める設計となっている。当然、8両編成を基本とした九州仕様の「次期モデル」としても有力になるだろう。

やがて必要になる800系の置き換えや、増備車両としては、この「N700S」が中心になるだろう。だが、それ以前のタイミングで現状の「N700系九州仕様」についても、緊急ブレーキについて「N700A」同等のパワーアップを期待したい。

冷泉 彰彦 作家

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れいぜい あきひこ

1959年生まれ。東京大学文学部卒。米国在住。『アメリカは本当に「貧困大国」なのか』など著書多数。近著に『「上から目線」の時代』(講談社現代新書)。

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