「九州新幹線」来春の徐行解除には何が必要か 熊本地震で得た脱線対策の教訓を生かすには

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改めて整理をしておくと、新幹線の地震対策の柱は「高架区間を中心とした設備の耐震性」に加えて、独自の地震計設置により初期微動を感知することで「電源遮断、緊急ブレーキ作動」を行うというシステムでできている。これは全国のフル規格新幹線に共通の考え方だ。

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JR東日本E5系新幹線の台車。2つの車輪中央から下に向かって突き出しているのが「L字型ガイド」(撮影:今井康一)

だが直下型地震に襲われた際などの脱線対策は日本の東西で全く異なるアプローチがなされている。まず、東北・上越・北陸・北海道の各区間では、車両側の台車に「L字型ガイド」という金具を取り付け、脱線時にはこのL字型ガイドが軌道に挟まることで逸脱を防止する。

その際に軌道に横方向の負荷がかかるので、危険箇所では軌道の転倒を防止する特別な補強金具が設置されている。これは、冬季に降雪の多い区間を走るために、線路に特殊な器具を設置すると隙間で凍結を起こしたり、あるいは除雪作業に障害が出たりする懸念があるためだ。

またJR西日本の山陽新幹線については、この区間のみ2本のレールの間の中央部に「逸脱防止ガード」という鉄製のハシゴのような器具を設置している。これは、脱線時にこのガードに車輪が引っかかることで、大きな逸脱を防止するもので、対策としては「やや簡易型」に属する。

九州の対策は二段構え

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東海道新幹線と九州新幹線は線路の内側に「脱線防止ガード」を設置している

これに対して、南海トラフ地震の想定震源に近い東海道区間、そして活断層の多い九州区間では、危険箇所を中心にレールの内側に沿った「脱線防止ガード」を設置する一方で、車両の中心には、この「ガードに引っかかる逸脱防止ストッパ」という金具を備えることになっている。

JR九州の兵藤部長によれば、この2つは「セットで効く」設計になっているのだという。つまり、「脱線防止ガード」というのは強力な効果がある一方で、万が一大きな横揺れに襲われて車輪がガードの上に乗り上げると、ガードの上を横滑りしていく危険があるからだ。

その横方向の逸脱を側壁や対向車両と干渉する前にストップさせることは何としても必要であり、そのために車両中央には「逸脱防止ストッパ」を設置してその「逸脱防止ストッパ」が「脱線防止ガード」に引っかかって逸脱を止めるようになっている。だから、この2つは「セット」なのである。

今回の脱線事故について言えば、脱線箇所自体が熊本駅発車直後のカーブということで、100ミリ前後のカント(カーブの内側へ向けた傾斜)がかかっていたという特殊要因がある。その一方で、時速80キロの速度制限区間であったこと、また営業車両ではなく回送中の車両であったことなどを考慮すれば、仮にもっと深刻な事態になったとしても死傷者が発生した可能性はゼロに近い。

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