赤字も穴埋めした「ほくほく線」の"投資手腕" 沿線人口減、内部留保取り崩し…課題も山積

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沿線は典型的な過疎地帯(写真は十日町市松代のまつだい駅付近)。人口の減少に歯止めがかからない限り、内部留保による赤字の穴埋めもいつかは限界が来る

さらに、2014年11月には北越急行が「適格機関投資家」として官報に公告された。金融商品取引法で「投資に係る専門的知識及び経験を有する者」と定義される特定投資家のことで、「アマ」と呼ばれる一般投資家に対し「プロ」とも呼ばれる。北越急行は「プロ投資家」として資産運用を行い、今後の赤字経営に備えようとしているのだ。

大谷部長は「安全性の高い、ある程度の格付け以上の債券などを購入している。通常の資産運用を行っているだけで、特別なことはしていない」と話す。ただ、国鉄ローカル線を引き継いだ三セクの多くは、1kmあたり3000万円の転換交付金を原資にした経営安定基金を運用しているが、いずれも数億円程度の規模で、近年では赤字の穴埋めで基金が枯渇したケースも見られる。その点を踏まえると、北越急行はひじょうに恵まれている。

同社が『はくたか』廃止後に「攻め」の経営に転じることができたのも、「守り」の経営によって積み上げてきた資金の「余裕」があってこそだろう。北越急行は今後、毎年3億~6億円程度の赤字が発生すると想定しているが、30年程度は安泰とみられる。このほど公表された2015年度決算によると、営業損失は6億4103万円で、純損失は6億2235万円。ほぼ想定通りになった。

「備え」だけでは解決できない

しかし逆にいえば、今後30年程度で約130億円の内部留保資金が枯渇するともいえる。北越急行は、2015年度については内部留保で赤字の全額を穴埋めする方針だが、それ以降は設備更新費用のうち、レールや車両の更新など安全運行に関わる分(今後30年間で84億円)について、公的支援を受けたい考えだ。3分の1は自社で負担し、残り3分の2を国や新潟県、沿線自治体で負担してもらうよう要請している。

それでも、根本的な問題は解決しない。沿線は典型的な過疎地帯。まつだい駅がある十日町市松代(旧・松代町)の人口は、1965年の約1万1200人に対し、1995年は約4700人まで落ち込んだ。ほくほく線の開業後も減少が続いており、2010年は約3600人。沿線人口の減少は、利用者の減少に直結する。

そもそも、沿線は古くから車社会化が進んでおり、ほくほく線に並行する高規格道の建設が進んでいることも気がかりだ。『超回想 薬師・儀明号』に乗っていた十日町市在住の女性は、「今日は電車好きな子供の付き添い。上越市の実家に帰るときは、子供にせがまれない限り車を使う」と話す。子供の付き添いとはいえ、鉄道のイベントに来る人ですらこうなのだから、高規格道が完成すれば車へのシフトがさらに進むかもしれない。

これらの問題は、北越急行だけで解決できることではない。沿線の自治体や住民も「プロ投資家」任せにせず、ほくほく線の今後、ひいては地域の将来を真剣に考えていく必要があるだろう。

(写真はすべて筆者撮影)

草町 義和 鉄道プレスネット 記者

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くさまち よしかず / Yoshikazu Kusamachi

1969年新潟県南魚沼市生まれ。鉄道ニュースサイト『鉄道プレスネット』を運営する鉄道プレスネットワーク所属。鉄道誌『鉄道ファン』『鉄道ジャーナル』などでも記事を執筆。著書に『鉄道計画は変わる。』など。

 

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