韓国・サムスングループ 前途多難な脱・個人商店経営

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だが、今回の発表が将来的なグループ経営に与える影響は軽微、という声も上がっている。その理由として、まず韓国におけるサムスン・グループの存在があまりにも大きいということだ。

サムスンは、たとえば家電やIT、生命保険や証券など、韓国人の日常生活にかかわる業界をリードしてきたトップ企業である、という点だ。

 静岡県立大学の小針進教授は、「経済危機でも持ちこたえ、先進国と肩を並べる大韓民国の“頭脳”的役割も果たしている不敗企業というイメージ。今回のスキャンダルで不敗神話に汚点を残したとしても、サムスンの圧倒的な存在感やスマートなイメージは決定的に下落しないだろう」と見ている。

また、韓国企業の経営に詳しい同志社大学大学院の林廣茂教授は、「今回のスキャンダルでしばらくの間、雌伏するのみ」と指摘する。それは、李会長が辞任しても、「誰か一人に権力を集中させた形にしないと、経営が成り立たない構造なのが韓国企業」と言う。また、「財閥というより“王朝”体質はなかなか抜けきらないだろう」と林教授は付け加える。

実際に、後継者と目される李専務は、「武者修行に出す」としたのみで、その後の地位などはあいまいなまま。ほとぼりが冷めた後に復帰させ、サムスンの後継者として立てながら、再びオーナー企業として地位を固めていくのでは、と見られても仕方がない側面もある。

また、特に海外投資家からの批判が続くサムスン独特のガバナンスも、今回の辞任では未解決のままだ。

サムスン・グループの支配構造は非常に複雑だ。「循環出資」と言われるが、株式保有からすると、現在のサムスン・グループは「李専務→エバーランド→サムスン生命→サムスン電子・サムスンカード・サムスン物産→エバーランド」という形になっている。すなわち、李会長一族が大株主となるエバーランド(非上場)が、グループの金庫番であるサムスン生命(同)の筆頭株主になっており、事業面では稼ぎ頭であるサムスン電子は、サムスン生命の下に連なる形になっているという構造だ。

そのため、李会長一族が保有するサムスン電子株はほんの数%に過ぎないのにもかかわらず、グループ企業の人事権をはじめ絶大な権力を握っているのは、世界企業としては希有なガバナンス構造になっている。

今回発表された経営刷新案では、「サムスンカードやエバーランドの株式を4、5年以内に売却する」ことを発表したが、わざわざこのような案を盛り込んだのも、批判が強い循環出資を意識したためだ。さらに、「持株会社化などには20兆ウォンかかり、実施には各社が経営困難に陥る」と付け加えたのも、このガバナンスは当面続けるということの裏返しでもある。そのため、「結局は李会長が権力を握る構造になり、ガバナンスは根本的に変わらない」(林教授)。

とはいえ、半導体や薄型テレビなど日本企業をはじめ世界での競争が激しくなる中で、一種の“権力空白期”が生まれることになった。「心理的にもダメージは大きい」とサムスン関係者は話す。

「李健煕商店」からの真のグローバル企業への変貌を経済界は期待するが、今回の事件でも、その前途は厳しそうである。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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