向谷実氏考案の「ホームドア」JR九州で実現へ 日本信号と共同開発!重量半減、16年度内に

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バー式のホームドアに着目した南さん。だが、ホームドアのプロの目から見ると、鉄道技術展で展示された試作品は「量産の試作機にまで持っていくには1年近くはかかるなと感じた」という。特に重要なのは強度の面だ。南さんが触ってみたところ「このままでは持たない」。ホームドアに求められる強度には国交省の指針があるため、条件を満たすためには構造の変更が必要になると判断した。

実用化に向けた開発は年明けからスタート。今年4月に幕張メッセで開かれた「駅と空港の設備機器展」の日本信号ブースでは、一段階ステップアップした試作品を展示した。初代との目立つ違いは、バーがすべて4本だったのが、4本と5本を互い違いに配した形になったこと。ホーム床面からバーまでの間を狭くするとともに、高さを増してより安全性を高めるためだ。

現時点での完成度について、南さんは「まだメーカーとしては入口ですね」。駆動部分などメカ的な部分の実現性を見極め、基本構造を固めるため見直しを図っているほか、さらに強度面などの見直しも進めているという。

チャイムは「向谷メロディ」に?

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JR九州の筑肥線を走る電車(305系)。新型ホームドアは同線の九大学研都市駅への年度内設置を目指している(写真: hgwryt / PIXTA)

従来形のホームドアは一つの扉の分で約450~500㎏ほど。新型はその半分程度を目指し、「重くても250㎏程度を目指している」(南さん)。

軽量化できれば設置コストを抑えられるほか、従来型では電車に積み込んで行う必要があるホームへの搬入も、駅の階段からの搬入が可能になるといい、そのメリットは大きい。このほか、向谷さんは板状の扉ではなく、バー式である長所として、乗務員によるホームの安全確認のしやすさも挙げる。

実用化に向けた開発では、視覚障害者の要望も取り入れていきたいという。「駅に来るのが楽しくなる環境をつくるには、ホームドアは非常に重要。収納部やバー部分も触ったときに気持ちのいいような滑らかなつくりで、触って位置が分かるようにしている」(向谷さん)。量産に向けた試作品が形になった際には、体験してもらえる機会も設けたいとの意向だ。ドア開閉のチャイム音についても「もちろん。南さんがOKなら手がけたい」と向谷さん。南さんも「それは大前提です」と笑う。

「とにかく完成、まず実現を目指して」(向谷さん)進むJR筑肥線での実用化に向けたプロジェクト。4月14日・16日に発生した熊本地震の影響で一時は見送りになる可能性もあったものの、地震後にJR九州の担当者が「年度内に実現できるようにがんばってください」と激励。安全対策はスケジュールを変えず取り組むという同社の方針で、実用化への動きはこれまで通り進むことになった。バー式の新型ホームドアが九州の地にその姿を現す日を目指し、向谷さん、南さんは実用化に向けた意気込みを新たにしている。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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