アメリカでさえ鉄道が復権する時代が来る−−葛西敬之・JR東海会長
--動きがないのは米国だけ?
米国はそこまで行っていないが、彼らも輸送のすべてを石油に依存するのはどこかで脱却 したい。鉄道はエネルギー源を水力、原子力にも多様化できるが、飛行機はできない。やはり石油です。陸上交通ぐらいは多様化に動かざるをえない。
米国では鉄道は今は貨物に使われていて、旅客鉄道は非常にマイナー。広大な地域に多くの人間が分散して住んでおり、需要構造が鉄道に向いていない。都市間連絡鉄道をつくっても、駅に着いてから先を自動車で構成するとなると、需要が集中せずに採算がとれない。
鉄道の採算性を決する唯一のファクターは輸送密度、輸送量です。東海道新幹線は1日に40万人を運ぶ。東北、上越新幹線はその半分以下。TGVは全路線でも半分程度です。日本は鉄道線路の建設費も含めて旅客運賃で賄う全面採算主義で、東海道新幹線はそれをクリアしてきたが、世界でそれが可能な地域はほとんどありません。フランスはじめ欧州は、初めから採算主義をとっていない。鉄道インフラは国がつくり、オペレーションだけで採算をとればいいという考えです。
アメリカにとって切り札は時速500キロの超電導リニアではないか。これによって米国の交通体系を安定させ、省エネ化を図る。たとえばワシントン-ニューヨーク間は、東京-名古屋間と距離がほぼ同じです。東海道新幹線で95分ぐらい。私が名古屋の本社から首相官邸での会議に出るときに、朝10時の会議に出ようと思ったら、8時の新幹線に乗れば1時間40分で東京駅に着き、官邸までは15分です。しかしアメリカだと、ニューヨークの人がワシントンのホワイトハウスで会議がある場合、前日に行かないとダメです。
--シャトル便があるのでは?
シャトル便は1時間弱だが、空港までにかかる時間、空港で搭乗前にかかる時間を考慮すると、とても朝の会議には出られないでしょう。
安定性と正確性は、時間を有効に活用する経済性につながる。米国も高速鉄道が欲しい。ただ、米国は線路も含めて民間ビジネスです。鉄道網をプライベートな資本が建設し、運営し、儲けられる可能性はない。国が動かないと無理。国家的課題として、連邦政府が決断する環境が必要です。インターステート・ハイウェーは国防費ですが、同じように高速鉄道ないし超電導リニアに予算をつけられるかどうか。
--安全保障とエネルギーという意味では、風は吹いています。9・11の同時多発テロで航空機依存の交通体系に不安が高まっている。
だから、いつか実現するでしょう。ただ、どの段階かというと、まず日本で実用化させるのが先。米国で本当にやるとしたら、超電導リニアは大陸横断に使えば飛行機のフライトラインに置き換わるものになる。これは採算の次元ではなく、国のエネルギー政策とセキュリティ問題としての決断になるでしょう。