未曾有のIPO仕切るサウジ・プリンスの改革 脱・石油依存政策に勝算はあるか

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PIFの投資は国内の産業と雇用を生み出す戦略的役割を持つとされるが、「1973年の第1次オイルショックから40年間働いてこなかった国民の意識改革は至難」(岩瀬氏)。娯楽・文化産業の振興も掲げるものの、女性の自動車運転を禁止する、保守的な宗教指導者の方針とも相いれないだろう。多方面に抵抗勢力が存在する中で、アラムコIPOは砂上の楼閣ともなりかねない。

改革を主導するサルマン副皇太子の権力基盤は決して盤石ではない。国王、皇太子、副皇太子の閨閥(けいばつ)であるスデイリー家に権力が集中することへの懸念は、15年来、怪文書などの形で噴出している。

「高齢のサルマン国王が死去すれば、歴史的に見て権力の揺り戻しが起きてもおかしくない」(国際開発センター研究顧問の畑中美樹氏)

アラムコIPO、さらに投資国家への転換まで財政がもつのか、予断を許さない。

プリンスの出方次第で再び原油価格急落も

サルマン副皇太子はこの数カ月間、「(年初に国交断絶した)イランが増産を続けるかぎり、われわれも市場シェアを取る」と、原油増産を示唆する発言を繰り返してきた。

5月7日には、サウジの石油政策の“顔”であったヌアイミ石油鉱物資源相を事実上解任し、ハリド・ファリハ氏を後任の石油エネルギー産業鉱物資源相に指名した。アラムコ会長を兼務するファリハ氏は副皇太子の側近。王家の政治が石油政策に関与しないという従来の基本方針はすでになくなった。

原油価格はNY先物で1バレル当たり40ドル台後半と半年ぶりの高値に回復。ようやく底入れを見せ始めたが、目先の財政収入を得るために、サウジが増産してもおかしくはない。副皇太子の出方一つで原油価格が再度急落するリスクの現実味が増している。

サウジは早ければ6月までに「ビジョン2030」実行の具体案を示す方針。若きプリンスが強行する経済改革をめぐって、さまざまな波乱が巻き起こるだろう。

「週刊東洋経済」5月28日号<23日発売>「ニュース最前線05」を転載)

 

秦 卓弥 東洋経済 記者

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はた たくや / Takuya Hata

流通、石油、総合商社などの産業担当記者を経て、2016年から『週刊東洋経済』編集部。「ザ・商社 次の一手」、「中国VS.日本 50番勝負」などの大型特集を手掛ける。19年から『会社四季報 プロ500』副編集長。21年から再び『週刊東洋経済』編集部。24年から8年振りの記者職に復帰、現在は自動車・重工業界を担当。アジア、マーケット、エネルギーに関心。

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