日本触媒は姫路再開メド立たず。事故損失は保険で一定補うが、SAP供給責任の重圧

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日本触媒は姫路再開メド立たず。事故損失は保険で一定補うが、SAP供給責任の重圧

日本触媒・姫路製造所(兵庫県)の爆発事故からほぼ1週間が経過しようとしている。姫路製造所の操業再開のメドはまだ立っていない。

爆発事故を起こしたのは、アクリル酸の製造プロセスの中間貯蔵タンク。同製造所のアクリル酸生産能力の3分の1が損壊した。ただ、紙おむつの原料となるSAP(高吸水性樹脂)の製造プロセスは無傷だった。

日本触媒は世界シェア3割を握るSAPの最大手。姫路製造所は全社のSAP能力47万tの7割(32万t)を担っている。操業停止が長引けば、世界の紙おむつの供給に支障を来しかねないことから、一部で早期の「部分再開」の可能性が取り沙汰されている。

だが、姫路製造所全体を対象として姫路市が発令した操業停止命令がいつ解除されるかは、現時点ではまったく不透明。消防隊員1名の犠牲者が出たこともあり、操業再開の前提となる事故原因の調査解明は、むしろ長期化するとの観測もある。

10月1日に開いた記者会見で池田全徳社長は「保険求償による補填を考えなければ、操業停止で1日当たり1.5億円の機会損失が発生する。設備の復旧には50億円程度の費用が見込まれる」と述べた。仮に操業停止が1カ月続けば今2013年3月期は、会社期初計画の営業利益250億円から45億円が減額され、特別損失としてさらに50億円計上されることになる。ただし実際には、操業ロス、設備復旧損失ともかなりの部分が保険でカバーされると見られる。

また、同社は今年6月、米国テネシー州のSAP工場6万tを閉鎖し、テキサス州に同能力の新工場を稼働させたが、テネシー州旧工場の設備はスクラップせず、まだ“生きている”。これを再起動できれば、姫路の“穴”のうち6万t分は埋めることができる。

反面、P&Gなど紙おむつメーカーへの供給責任を果たすために、日本触媒は他社からSAPを購入せねばならない。アクリル酸やSAPの価格高騰は必至であり、高値購入を余儀なくされる日本触媒のダメージは、操業ロスを超えて膨らむ可能性もある。

以上のように、複雑かつ不透明な要因が錯綜しているため、東洋経済では現時点では下表のように、業績予想数字の見直しを留保する。引き続き今後の推移を注意深く観察・取材し、数字見直しの条件が整った段階で予想を見直すものとする。

《東洋経済・最新業績予想》
 (百万円)    売上高  営業利益   経常利益    純利益
連本2012.03      320,704     31,100     33,114     21,257
連本2013.03予     330,000     25,000     28,000     19,500
連本2014.03予     350,000     28,000     31,000     21,000
連中2011.09      163,919     18,086     18,556     12,274
連中2012.09予     160,000     11,000     13,000      8,500
-----------------------------------------------------------
          1株益\    1株配\
連本2012.03        104.7         22 
連本2013.03予        96.1         22 
連本2014.03予       103.4         22 
連中2011.09         60.5         11 
連中2012.09予        41.9         11 

 

梅沢 正邦 経済ジャーナリスト

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うめざわ まさくに / Masakuni Umezawa

1949年生まれ。1971年東京大学経済学部卒業。東洋経済新報社に入社し、編集局記者として流通業、プラント・造船・航空機、通信・エレクトロニクス、商社などを担当。『金融ビジネス』編集長、『週刊東洋経済』副編集長を経て、2001年論説委員長。2009年退社し現在に至る。著書に『カリスマたちは上機嫌――日本を変える13人の起業家』(東洋経済新報社、2001年)、『失敗するから人生だ。』(東洋経済新報社、2013年)。

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