中国人は「何もない田舎」を心底求めている 観光の目玉がないと嘆く日本人に伝えたい

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「田舎の空気を吸うとほっとしますね。都会ではめったに感じられない“やすらぎ”を覚えます。ここに滞在するだけで、特別に何もしなくても、十分すばらしい旅行になります。子どもの成長にとっても、大自然に触れることはよいことだと思いますね……」

杭州で同じホテルに滞在していた、40代くらいのある宿泊者の声だ。

上海から高鉄(新幹線)で約1時間の杭州には、西湖という有名な湖があり、昔から風光明媚な観光地として全国的に知られている。富裕層が多く住み、自動車の保有台数は全国でも有数といわれており、杭州市中心部にはベンツなど高級車がごく普通に走っている。

富裕層が訪れる杭州

そんな都市・杭州には、ここ数年、上海や蘇州、南京など周辺の都市部の富裕層が訪れている場所がある。杭州市の郊外に位置する高級プチホテルやペンションの数々がそれだ。

交通が不便な山間部などに点在しているが、ほとんどの客がマイカーで訪れるため、不便であっても問題ない。むしろ、PM2・5とは無縁で、都会の喧騒から離れた何もない場所であることこそ、価値がある。これは「日本の農村を訪れて、数日間のんびりしたい。何もない場所で、プレッシャーから解放されたい」と切に願う訪日中国人観光客の心理とも共通する点だ。

そんな中でも特に人気のあるプチホテルのひとつが「桐廬莪山秘境山郷生活酒店」だ。市中心部から約1時間半、標高600mのやや高地に位置し、静かで落ち着いた雰囲気が、都会暮らしに疲れた中国人たちの間で評判となっている。

 若き経営者、慎章翔さん(写真撮影:林翔氏)

このホテルを創業したのは、33歳の若き経営者、杭州市在住の慎章翔さん(=写真)だ。もともとはデザイナーだったが、大都市でのプレッシャーに押しつぶされそうな人々の癒しの場になれば、と思いつき、3年前に古い家屋を改装して同ホテルをオープンした。

慎さんは「農村には使わなくなった家屋が多くあって、もったいない。都市部の人々は農村でののんびりした暮らしや自然に対して憧れの気持ちを持っている。そんな両者をうまく結びつけられないだろうか、と考えました。古くて広い家屋は有効活用することができるし、都会の人は田舎暮らしも満喫でき、おいしい空気を吸ってリフレッシュすることができます」と語る。

宿泊料はシーズンによって変動するが、1泊1室、約1000元(約1万8000円)と安くはない。だが、農家の素朴な雰囲気を保ちつつ、選りすぐりの調度品や質のいい家具を取り揃え、静かな環境を整えていること自体、中国ではめったに味わえない希少価値だといえる。

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