日本精工など出資の財団が、日本では珍しい高専への助成を開始
ベアリング大手の日本精工などが出資する公益財団法人「NSKメカトロニクス技術高度化財団」が、高等専門学校(以下、高専)のメカトロニクス技術(機械運動に関する技術と運動の電子制御に関する技術を一体化した技術。以下、メカトロ技術)科目への助成事業を開始する。
研究者などの個人ではなく、教育機関である高専を直接支援する点が特徴だ。産業界が個人の研究活動などに奨学金や助成金を支給する事例は多いが、高専の授業に対する支援は過去に例がないという。国による運営費交付金の削減を受けて高専の財政状況が厳しくなりつつあることなどから、支援を決めた。
国立や私立の高専57校から対象を募り、予定されている授業内容などをもとに審査、対象を決定する。大学の寄付講座などと異なり、シラバスの作成や運営は各校に委ねられる。助成期間は2年間。初年度は5件を対象に、財団の年間事業費の約2割に相当する1250万円を拠出する。
メカトロ技術の裾野は広く、自動車、工作機械、ロボットなど、日本企業が世界で高シェアを誇る製品の数々に応用されている。だが、近年は、中国や韓国など新興国の追い上げも強い。同財団の朝香聖一・理事長(日本精工名誉会長)は、事業の目的について、「自動車関連を筆頭に、メカトロ技術によって日本が優位に立っている産業は枚挙にいとまがないが、現状のままでは、韓国や欧米先進国の追撃によって優位性を失いかけない。本事業をきっかけに、メカトロ技術に通暁する人材の育成が活発になれば」と語る。
高専への支援は息の長い取り組みになりそうだが、本事業を機に、メカトロ技術に卓越した人材の育成が進めば、日本精工も含むメカトロ関連企業にとって、技術レベルの底上げも期待できそうだ。
助成開始の背景や日本の工学教育の現状について、同財団の理事である下河邉明・東京工業大学名誉教授と樋口俊郎・東京大学教授に聞いた。
--高専対象の教育助成事業を始める背景は?
〔下河邉〕東日本大震災がきっかけの一つだ。福島の原発事故を受け、最初に現場へ向かったのは、アメリカのロボットだった。実際は、日本に(災害対策用の)ロボットがなかったわけではないのだが、これまでロボットなど日本のメカトロ分野に対して研究助成をおこなってきた財団として、ショックを受けた。財団内で議論を重ねた結果、一番大切なのは人材の育成ではないか、との結論に達した。大学などの研究費を助成している財団は数多くある。だが、高専の教育を対象にした助成事業は、過去に例がない。また、高専の生徒は中学卒業後間もないので、まじめで、“鉄”が熱い。そういう人たちにきちんとした教育をすれば、うんと伸びるだろうと考えた。