世界金融危機と欧米主要中央銀行 リアルタイム・データと公表文書による分析 地主敏樹、小巻泰之、奥山英司著 ~フォワードルッキングな政策はどこまで可能か

世界金融危機と欧米主要中央銀行 リアルタイム・データと公表文書による分析 地主敏樹、小巻泰之、奥山英司著 ~フォワードルッキングな政策はどこまで可能か

評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長

 リーマンショック直前の2008年春から夏にかけ、米欧の中央銀行は大きなジレンマに直面していた。既に前年の夏、米国では信用バブルが崩壊し、欧州でもスペインやアイルランドのバブル崩壊が明らかになっていたが、一方で原油や穀物の価格の高騰が続きインフレ率が大幅上昇していた。それゆえ、米国は金融緩和を停止し、欧州は7月に利上げを実施した。当時、評者が各国の政策当局者と議論すると、30年かけて確立した物価安定が損なわれることを懸念する人もいた。

本書は、07年から09年末までの米欧の金融政策をリアルタイムのデータと公表文書を基に分析したものである。米国はさまざまな手段で金融政策の意図を外部に伝えようとするが、各国の代表が集まり政策を決定する欧州中央銀行は政治的独立性を維持するため、内部の議論も投票結果も公表していない。その情報不足を補うため、近隣に位置し積極的な情報公開で知られる英国とスウェーデンも分析対象としている点が興味深い。

リアルタイムのデータを使うのは国により統計発表までに2、3カ月のラグがあることや、統計が後で大きく改定されるためである。それによって、どのようなデータに反応して政策が決定されたか、把握可能となる。分析の結果、08年春から夏にかけては、米国でも金融政策の焦点がインフレ懸念であったことが示される。

危機が始まると中央銀行が大量の流動性を供給するが、金融機関のバランスシート問題が手付かずで危機は長引く。金融機関への厳格な資産査定が不可欠でも、問題企業の破綻を恐れ政治的に先送りが選ばれる。そもそも事態が即時に把握できないため、フォワードルッキングな政策運営どころではなくなる実相が読み取れる。

じぬし・としき
神戸大学大学院経済学科教授。1959年生まれ。ハーバード大学大学院修了(Ph.D)。

こまき・やすゆき
日本大学経済学部教授。1962年生まれ。筑波大学大学院経営政策科学研究科博士課程修了。

おくやま・えいじ
中央大学商学部准教授。1973年生まれ。神戸大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。

晃洋書房 3780円 256ページ

  

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