グローバル人事の「目」(第7回)--「留学」ならぬ「留職」という新しい選択肢
◆日系ハイテク企業P社の事例
日系ハイテク企業のP社は昨年度、ベトナムの中部の都市のNGOに1ケ月間社員を派遣した。この地域の貧困層は薪で食事を作るため、薪から出る有毒な煙が目や肺に入って病気になったり、森林を破壊したりするなど、大きな社会問題を引き起こしている。
そこでNGOは太陽光を活用した調理器である「ソーラークッカー」の普及に取り組み、薪の使用を抑える活動を推進した。しかし、ソーラークッカーは貧困層が手に入れるにはまだ高価であったため、P社が人材を派遣して低コストで生産可能な製品を設計し、試作品まで仕上げることにしたのである。結果、悪戦苦闘しながらも期日までにミッションは達成。派遣された社員も日本では体験できない貴重な経験を積んだようだ。
実際派遣された社員に聞いたところ、言語の問題よりも日本的なコミュニケーション方法が全く通用しないということが障害になったとのことであった。そのため、思い切って日本の常識を捨て、相手目線で理解に努め、コミュニケーションするしかなかったという。例えば現地では会議で資料を作る習慣がなかったため、一からその必要性と意味合いを粘り強く説明する必要があったそうだ。
また日本では機材や材料は容易に手に入るが、現地ではそうはいかなかったらしい。日本では常識でも現地ではそれができない理由があるため、現地で手に入るもので、実際にやってみて、試行錯誤をする中で解を見つける。郷に入れば郷にしたがったやり方で事に当たるということが身に染みたようだ。また普段とは異なり作業プロセス全体の責任を負うことで厳しくもやりがいがある経験を積んだそうだ。
留職したメンバーを支えたのはP社のリモートサポートである。現地に乗り込むメンバー以外に営業企画、マーケティング、エンジニア、CSR等の部門からそれぞれ1名が本社サイドのリモートサポートメンバーとして参加し、何度もテレビ会議を実施して、留職したメンバーにはない知見を提供した。