西武が建築家に「斬新デザイン」を頼むワケ 妹島和世や隈研吾、車両の内外装に続々登場

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新型特急は8両編成7本を導入し、池袋線・西武秩父線で運行する予定で、検討は今年度に開始。同社やグループの若手社員を中心にプロジェクトチームを立ち上げ、妹島氏と意見交換を行ってコンセプトを策定したという。外観デザインのコンセプトは「都市や自然の中でやわらかく風景に溶け込む特急」だ。

妹島氏は、同じく建築家の西沢立衛氏と設立したユニット「SANAA」で手がけた金沢21世紀美術館など数多くの作品で知られるが、鉄道車両のデザインを手がけるのは今回が初めて。公開されたイラストでは、金属素材を磨き出したような、周囲の風景が映り込む銀色の車体が印象的だ。

イラストはあくまで検討中のイメージ図だが、車体の素材にはアルミを使用し「このデザインを目指して進めている」(西武鉄道広報部)という。妹島氏は「秩父の山の中や都心の街の中と、いろいろな風景の中を走る特急が、やわらかくその風景と共にあるようになれたら良いなと思いました」とコメントしている。

内装についてもまだ詳細は決まっていないが、コンセプトは「ただの移動手段ではなく、目的地となる特急」。乗って移動するだけではなく、特急で過ごすことが目的となるような空間や雰囲気を生む内装デザインを目指すという。

「体験としての鉄道」へ

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鉄道は「特別な経験が得られるから乗るものになっている」と語る隈研吾氏(撮影:風間仁一郎)

単なる移動手段からその場で過ごす体験を目的とした列車へ、鉄道のデザインは移り変わりつつある。隈研吾氏がデザインした、4月から運行を開始する観光電車「52席の至福」にも、単に外観や内装ではなく「体験」をデザインするという考え方が表れている。

「52席の至福」は、池袋・西武新宿~西武秩父、西武新宿~本川越間を、車内で食事を楽しみながら片道約2時間半~3時間をかけて走る。コースは運行日によって異なるが、1回に乗れるのは列車名の通り52人まで。食事は有名店のシェフが監修し、4月~6月の運行では、埼玉県産の牛肉をテーマにコース料理を提供するという。予約は2月から始まったが、昼の「ブランチコース」(税込み1万円)は6月中まで、すでに満席という人気ぶりだ。

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西武が4月から運行を開始する観光電車「52席の至福」の室内イメージ。車内では食事が楽しめる(画像提供:西武鉄道)

車両は現在西武秩父線などで使われている4000系電車の改造だが、車内は隈氏のデザインにより、木材や和紙などの伝統工芸品を活かした1両ごとに異なるインテリアとなる。

隈氏は「鉄道車両は工業化社会のインフラデザインとして移動という機能が優先だったが、いま鉄道に乗る人はその場で得られる特別な体験に重きを置くようになっている。『体験としての鉄道』がこれからはテーマになる」と語る。

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