北海道新幹線の車両は「荷物輸送」に使える! 水産物がトラック便より早く首都圏に届く

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続いて、新たな荷物輸送システムを活用した水産物輸送の荷物輸送による道南地域への経済波及効果を、「平成10年北海道道南地域産業連関表」を用いて推計した。

前提条件は以下の通りである。

輸送対象:スルメイカ・アワビ・ウニ・マグロ・ホタテ・サケなど10品目の水産品
水産物輸送量:20トン/日、6000トン/年(300日)
便数、輸送料 :2便(朝、晩)/日、送料600円/10kg
価格向上率:163%(10品目平均)
輸送する水産物価格:約15億円(参考:函館魚市場の年間取扱金額200億円)
輸送料金総額:3億6千万円(6,000トン×600円/10㎏)

 

旅客輸送による北海道への経済波及効果は、当時の北海道経済連合会と野村総合研究所の推計によると年間120億4000万円であり、新たな荷物輸送システムを利用した小売向けの水産物輸送をした場合の道南地域への経済波及効果(一次二次合計)は、年間22億2600万円/年となった。これは旅客輸送の効果の約2割に相当する金額である。

観光客の誘因効果にも期待大

筆者らが提案した新幹線による荷物輸送の構想は、車両は内部の改良のみで大規模な改変は必要なく、搬出搬入のための大きな設備投資も必要としない。列車の増便や増結、特に大宮駅と東京駅間の過密ダイヤ区間における新たなダイヤ編成も不要であるため、かつての小荷物輸送(レールゴーサービス)を改良するような内容でも検討の価値は十分あるように思う。

一方、短い停車時間での荷物の積み下ろしや、東京駅内外での荷物の搬送、安全対策など課題はあるが、北海道新幹線で北海道道南地域の水産物をはじめとする農水産品やスイーツなどの荷物輸送を行えば、首都圏での販売流通による地域への経済波及効果が期待されるばかりでなく、それらをきっかけとして観光客の誘因効果も見込まれ、経済波及効果はさらに期待できる。

この研究結果は、2014年11月から約1年間、「新幹線ほくとう連携研究会」(一般社団法人北海道東北地域経済総合研究所)で討議された。2010年には、共同研究者である長野章先生が、在来線及び八戸まで開業済みの新幹線を使い「函館産の弁当」及び生鮮水産物の輸送実験を行い、荷物輸送の実現性を検討した。こうした討議や成果の取りまとめがきっかけとなり、北海道新幹線の多面的な活用への機運が高まること、そして新幹線開業による北海道への経済効果が少しでも大きくなることを期待する。

なお、本稿で参考にした統計データや関係者へのヒアリング内容などは当時のものなので、現在と若干異なる可能性があることを断っておく。

片石 温美 室蘭工業大学地域共同研究開発センター准教授

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かたいし あつみ

1990年北海道大学工学部卒業、2003年北海道大学工学研究科環境資源工学博士課程修了。2012年から現職。

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